君とならどこまでも



『ふう』


今日も今日とて麦わらの海賊団は、宴会で大賑わい。
サンジの美味しい料理にお酒、ブルックの演奏する曲に合わせてナマエが歌を奏でればそこは海賊船というよりも、どこぞの貴族の一流パーティーのような、煌びやかなものになる。

宴は夜遅くまで続き、気づけばルフィ達、男衆は騒ぎに騒いで疲れ果てたように甲板で大の字になって眠っており、ナミ達も女部屋で眠りにつく。

シャワーを浴び、ルフィ達にブランケットをかけると、酔い覚ましにとルフィの特等席である船首に腰かけたナマエは空を見上げ、ひとり夜の星空を堪能した。
今日は弓張月・・・半分欠けている分、周りの星々がキラキラと輝きを見出しており、気分が良くなったナマエは、宙に投げ出された足をパタパタと振りながら、仲間達を起こさないようあえて子守唄のような優しい歌を紡いだ。


『(サボ・・・元気にしてるかな)』


歌いながら思い出すのはいつだって大切な人。もう眠ってしまっただろうか。それとも起きて仕事をしているのだろうか。
考えれば考えるほど会いたい欲が湧いてきてしまい、寂しさを紛らわすように歌を歌い終けていると・・・突然ナマエの両耳に付けられた耳飾りが淡い光に包まれる。


『え・・・な、なに!?』


その光はナマエの身体を包み――音もなく、先程まで船首にいたはずのナマエの姿は何処にもなく消えてしまっていた。










「ったくコアラのやつ」


溜まりに溜まった報告書に目を通しながらサボは一刻前のコアラとのやりとりを思い出し、文句を垂れながらも仕事に励んでいた。
こうしている間も、今サボが乗っている船は次の任務の目的地へと向かっており・・・終わりの見えない仕事につい弱音を吐いてしまいそうで。


「ふー・・・」


何気なく船窓に視線を向けてみると、気づけば外は真っ暗で時計を見れば時刻は0時前。わずかに見える月を眺めながら思うのは、いつだって恋人のナマエの事だった。

会いてェなあ、そう呟きながらサボが気分転換にコーヒーをもらうため席を立とうとした、次の瞬間――突然辺りを眩い光が包み、サボは驚きながらも敵襲かと戦闘態勢に入った。



「!?」


光が消え、ゆっくり瞼を持ち上げた瞬間――今度は頭上から人が落下してきたではないか。サボは驚きながらも反射的に落ちてきた人物を抱き止め、そして見覚えのあるパステルピンクの髪にさらに目を見開かせた。


「ナマエ!?」
『・・・っ・・・え・・・サ、サボ!?な、なんで』


そう、なんと降ってきたのはナマエだったのだ。
さっきまでサニー号の船首にいたはずのナマエは急な出来事に大きな瞳をきょとんとさせて、サボを見上げた。


「何処か痛いとこはないか?」
『う、うん』
「にしてもなんで急に・・・なんか力、使ったのか?」


心当たりがなくふるふると首を左右に振ったナマエは、何か思い出したように『あ、』と口を開く。


「心当たりあるのか?」
『あ、あのね、その・・・』
「?」


陶器のような白い頬が、ほんのりと桜色に染まる。なぜ照れてるのか分からないサボが首を傾げながらも次の言葉を待っていると、ナマエは観念したのか恥ずかしそうに手で顔を隠しながら言った。


『サ、サボに、会いたいなあって・・・思って、たら・・・気づいたら、ここにいたの』



まるで茹蛸のように、全身真っ赤にしてそう言うナマエにサボはくらりと目眩がしてしまった。
ただでさえ恋人になって会うのは久しぶりだというのに、まるで殺し文句のような言葉に愛おしさが込み上げてきたサボは、何故こうなったかは分からないがこうして会えたのだからもはや原因なんてどうでもよくなっていて。

おれも会いたかったと、真っ赤になっている耳元に向かって囁くとナマエは照れながらも、嬉しそうに微笑んでいて。

えへへ、そう無邪気に笑うナマエの顎を人差し指で持ち上げながら、サボが顔を近づけようとした・・・その時。


『っ!』
「ぐおっ」

「ちょっとサボ君大丈夫!?なにいまの光!?」


見聞色の覇気で、誰かが近づいてくる気配を察知したナマエが咄嗟にサボの口を両手で塞ぐ。それと同時に勢いよく扉が開かれ、外から慌てた様子のコアラ達、革命軍が現れる。

――部屋に入った瞬間、そこにいるはずのないナマエを視界にとらえたコアラは「え?なんでナマエさん?」と呆気に取られるも、すぐにその背中に回っているサボの手を見つけると鬼の形相で歩み寄り、サボの膝の上からナマエを降ろしたコアラは守るように自身の背中に隠した。



「サボ君いつかやるとは思ってたけど・・・っ一体どんな手を使ってナマエさんを攫ってきたのよ!」
「なんでそうなるんだよ!!攫ってなんかいねえよ!」
「え?違うの?じゃあ、どうして・・・」

『あ、あの、私も何が起きたか分からなくて・・・たぶん、キラキラの実の能力だと思うんだけど、』






――先ほど起きた出来事を説明すれば、コアラは息を吐きながら「てっきりサボ君が犯罪に走ったのかと思ったよ」と安堵しており、なんでだよ、とすかさずツッコむサボ。
ナマエが申し訳なさそうに謝れば、コアラはいいのいいの首を左右に振り、持ってきたココアを手渡してくれる。



「とりあえず夜が明けたらルフィ君に電伝虫で伝えないとね。ナマエさんがいないって知ったら心配しちゃうわ」
「ああ、そうだな。ナマエ、ルフィ達の次の行き先は何処だったんだ?送ってく、と言いたいところだが・・・おれ達も今任務に向かってる途中でさ」
『えっと・・・ウタのライブに行く、って言ってて・・・なんだっけ・・・えっと・・・』



ナミ達の会話を必死に思い出そうとするその姿に、サボは「おれの妹が可愛すぎる」と天を仰ぎ、横にいたコアラは無視するように偶然テーブルに置いてあった新聞紙を広げた。するとそこには丁度、今世間を騒がせている世界一の歌姫ウタのライブに関する記事が載っていた。



「エレジアの事?」
『!そ、そう!』
「わたし達の船は今シャボンディ諸島に向かってるの。あと数時間後には到着する予定よ。シャボンディから、えーっと・・・確か2日後にエレジア行きの船が出てるわね。それに乗ればルフィ君達とは落ち合えそうね」
『本当?よかった!あの、迷惑じゃなければシャボンディ諸島まで一緒にいてもいい・・・?お、お仕事の迷惑にはならないようにするから』
「ああもちろんだ。ドラゴンさんにはおれから報告しとく。とりあえず今日はもう遅ェし寝るとするか」
「そうだね。ナマエさん、女部屋はこっちだよ、案内するわ」
「は!?」



ナマエの手を引き、部屋を出ようとするコアラに思わず素っ頓狂な声が出るサボ。
なに?とコアラが首を傾げればサボはナマエの反対の方の手を掴み、「ナマエはおれと寝る」とこれまた訳の分からない事を言い始める。


「おれの大切なナマエが襲われたらどうすんだよ!」
「何言ってんの!?この船の中だとサボ君が一番危険だよ!」
「いーや、ここで寝るのが一番安心だ!」
「絶対危険!」
「絶対安心!!」



両者一歩も引かず、左右から腕を引っ張られ間に挟まれたナマエは困ったようにアハハと眉尻を下げるのだった。










『本当に良かったの?サボ』
「ああ。こんな機会滅多にないからな」



あれから船は無事にシャボンディ諸島に到着し、ここでお別れかと思えばサボは当たり前のようにナマエと共に下船し、エレジアの船が出発する二日間、一緒にいると言い出した。

ちなみにナマエはコアラの用意してくれた服を身に纏い、キャスケット帽に髪の毛をすべてしまい黄色いレンズの丸いサングラスをかけ、完璧に変装をして街へと降り立っていた。サボも、服装はいつもと変わらないが、顔だけバレないようにサングラスをかけている。


『仕事は?』
「後で合流する。最初は偵察だからな、コアラ達だけでも何とかなる」
『・・・そ、っか』


気を遣わせてしまったのだろうかと不安になるが、サボと船を降りる際、コアラはサボにゆっくり息抜きしてきてね、と言われていたから、あながち間違ってもいないのだろう。
迷惑をかけてしまったのは申し訳ないが、それよりもサボと二日間も一緒にいられると思うと喜びの気持ちが勝り、口元が緩みそうになるのを抑えるナマエを横で見てフッと笑ったサボはナマエの手を取ると、所謂恋人繋ぎをして隙間なくピッタリとくっついた。


「考えてみると初めてのデートだな」
『!そうだね!』
「まずは何処に行きますか?お姫様」
『えっと・・・何か食べたい!』
「ははっ。さすがおれ達の妹だな」


その身体の何処に入るのか分からないが、ナマエもエースやルフィに負けず劣らず食事が大好きだ。
何が食べたい?と聞けば、思った通りの答えがすぐさま出て来たのでまたさらに笑みは深まった。


『お肉!』




   



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