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王の気質

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何故こいつなのだ、と何度も天帝に問いかけた。
わがままで横暴で、自分の事ばかりではないか。何故こいつが俺のこの国の、と。

…以前昇山した者の中にいた柳はまさに王と呼ばれるに値していた。物腰が柔らかく、それでいて州師将軍であるのからわかるように強さもある。そして何より民を思う優しさが彼の全てから伝わってきた。
それなのに彼には天啓が無かった。

(彼が王ならどんなに良かったか)

そう思いながら気分転換にと蓬廬宮から少し出歩いた時に出会ったのが幸村だった。

女仙には何度も云われていた言葉であったが、天啓というものはあのようにわかりやすいものであるのか、と驚いた程に、幸村は特別だった。
身体から溢れる"主を見つけた"という驚喜の感覚と、彼に対する畏怖。彼が王だ。あれは確かに確信だった。

…しかしいざ話してみればどうだ。
わがままで自由気ままで、あげく「お前が王だ」と告げた時には「そんなもの面倒だ」と吐き捨てられた。
「何故あれが王であるのだ…!」
行き場の無い憤りにそう叫べば、女怪が自分を抱き締めるのがわかる。
わかっている。俺は麒麟だ。王の為に産まれただけの存在で、だから王である幸村に拒絶された事が何より辛い。…何より悲しかった。

「何故着いてくるんだい」
呆れたように吐かれた言葉にチクリと胸が痛んだが俺は構わずに後を追う。
幸村には王になってもらわなければならない。王が玉座に就かなければ国は滅ぶ。あの国はもう、十何年も王がいない。野は荒れ水は枯れ人は死んでいった。
故に蓬廬宮には沢山の昇山者があった。一刻も早く王に建って欲しいのだ。
けれどそんな事彼には届かない。伝わらない。それがもどかしい。

「…誓約を、」
どうにか絞り出した言葉だけれども幸村はまたかと溜め息を吐いた。嗚呼、俺は彼の行動でこんなにも苦しいというのに。
服の裾を握りしめる拳は、強く握りすぎて白くなっていた。
「…何故俺にこだわるんだ、別に俺でなくても良いだろうに」
そんな俺に見兼ねたのか、ようやく幸村が俺と向き合ってくれた。俺は勢いよく顔を上げ、口を開く。少しでもわかって欲しくて、ほんの少しでも気が変わればと、天の理、王位について、…そして麒麟について話を始めた。

「…ふぅん」
いつからか俺から視線を外し遠くを見ていた幸村が、ふわりとこちらに視線を流す。
(…嗚呼やはりお前は、)
瞬間改めて確信する。彼が王だ。俺の、主だ。
スッと彼の前に腰を折り頭を下げる。深く深く、乞うように。否、実際乞うたのだ。俺は彼に王になってくれと、深く願ったのだ。

「…御前を離れず、」
どくりと胸が音を立てる。
王になれと告げた事はあるが、彼に誓約を乞うのは初めてだった。これでまた拒否されてしまったらどうすれば良いのだ。震える自分の手を見ていられずに目を閉じた。
「…詔命に背かず、…ち、忠誠を誓うと、」
視線が痛いほど注がれている。その先が拒絶ではないかと考えるととてつもなく恐ろしかった。

「誓約します…」

けれど言葉は最後まで続けられた。
それはやはりどこかで期待があったのだ。
彼ならば、という期待、

果たして彼は呟いた。
「許す」と。

瞬間眩暈にも似た感覚が押し寄せる。
…紛れもない幸福感だった。
「何故泣くんだい」
呆れたように笑われ、自分が泣いている事に気付いた。
「そんなに俺が王になる事が嬉しいのか?」
そう問われ俺は「無論だ」と即座に頷く。
麒麟は天啓に逆らえない。他の麒麟には「この王では国が滅ぶとわかりながらもやはり抵抗出来ずに誓約を結んだ」という者もいると聞いた。麒麟が選んだ。それこそがまさに天啓だ。そして自分はまさしく彼だと感じたのだ。嬉しくないはずがなかった。

そんな俺にするりと幸村は手を這わす。角の位置する額を触れられればびくりと竦む体に小さく笑うと、幸村ははっきりと云い放った。

「俺が王だと苦労するぞ」

その言葉には一切の拒絶が入っていなく、ようやく彼が自分の主になったのだという実感に包まれ、俺は再び涙を流した。

(そんなもの最初から全て受け止める気しかないわ、馬鹿者)

ー白雉鳴号、一声鳴号
幸村の即位を知らせる声が、その日鳴り響いた。



end


*************

わ、他作品パロディとか初めてだ!ひぃい楽しかった…!^///^
基本的な説明は十二国記より引用しています。しかしパロディなのであの…色々違うところがあってもスルーしてやって下さいまし…←
否それにしてもこれ完全に俺得でしたね…すいませんでした反省も後悔もしてません広まれ十二国記の輪…!←

そしてとりあえず簡単な基礎知識(笑)

◎世界は天帝によって作られたものであり、王は天啓を受けた麒麟によって選ばれる
*麒麟:天意に従い王を選び、王以外には消して従わぬ孤高不恭の生き物
*主上:各国の王に対する尊称
*天啓:麒麟が自らが仕えるべき王に出会った時に感じるもの。目には見えない
*白雉:王の即位と崩御を知らせるためのみ、一生のうち二度しか鳴かない霊鳥

こんな感じで成り立っていますw






――王の気質――




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