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変化なんていらない

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変わってしまうのが怖いと思うんは、いかんのか。

その時の俺は、ただそれだけが怖かった。


「小石川、」
欠伸をしながら教室に向かっていれば不意にかけられた声に、声の主に、一気に顔が赤くなるのがわかる。
「…師範」
おはよう、と云われて並んで隣を歩かれる。テスト期間で朝練が無いから一緒に登校する日があるとは思ってなくて、ちょっと油断しとった。寝癖とか…ついてないやろか。
そんな事を考えていれば、「どんな感じや?」と問われ唐突な質問に間抜けな声を出してしもた。
「すまんすまん。テストの手応えの事や」
苦笑いしながら付け加えられて、ああ、と納得する。
「悪くは無いと思うんやけど、」
「特別上手く出来たわけでも無い、か?」
小さく頷く。正直全国大会があったためあまり勉強していなかった。試合には出ていないが、副部長として皆をサポートしようと色々頑張っていたつもりだ。しかしそのせいで普段よりテスト勉強に時間を回せなかった。
「師範は?」
「儂もあまり良くないな…」
恐らく本当に良くないのであろう、苦虫を噛み潰した様に顔をしかめる師範にふ、と安堵する。
恐らく全国大会で沢山試合をした白石は、聖書と云う名の通りそこはぬかりなく点数を取れるのだろう。謙也もなんやかんやで点数を取れるし、小春は云わずもがなで、一氏も小春に習いながら点数は取れる。
試合に出とったメンバーが出来とるのに、俺が試合を云いわけに取れてないっちゅーのは許されん。
勿論、試合を理由にしとる時点でいかんかも知らんけど、それでも、出来んかったもんは出来んかった。
それを察したのか、師範は苦笑いして「周りが出来る奴ばっかりやと大変やな」と俺の肩を軽く叩いた。


石田銀。
チームメイトで、俺の、好きな人。
男で、俺より大きい図体しとるから、自分でもなんで師範なんかを(あ、悪い意味は含んでへんで)好きになったのかはわからんけど、誰よりも一緒におって安心するし、側におったらドキドキするから多分本当に好きなんやと思う。
最初は飛び抜けたルームメイトの中でレベルとかそういうんが同じ位の師範の側が安心出来るんや、とかと思っとったけどなんやかんやそういう気持ちだけやないんに気付いたんはつい最近の事やった。
…きっかけになったんは、ほんの些細な事で、遅刻するかもしれんっちゅー時に慌てた師範に握られた手を、離したくないと思った事。(師範は弟がおるから、多分そのノリやったんやと思うけど)
正直自分でも最初は引いたけど、そういう風になるのは初めてやったし、多分恋愛とかこういう類の気持ちはもうどうしようも無いやろから開き直る様にしとる。

せやけど、自分の気持ちを認めるのと、伝えるのとでは意味が違う。
俺は一生、この気持ちを伝える事は無いやろう。

…ずっと、そう思っとった、せやのに、


「好きや、健二郎」

なんでこうなったんやっけ?
俺がテストでわからんとこがあるから師範教えてくれん?って頼んで、一緒にテスト勉強する事になって、2人で図書館におって、え?あかん思い出せひん。
なんで、どういう事なんや、なんで俺が告白されよんの?好きなんは俺で、俺の方で、

「…ほんまに、好きなんや」

(嗚呼…)
俺が大好きな、師範の真っ直ぐな瞳。せやけど今はそれが少し揺らいどる。
なんやそれ。そんなん俺かて、…俺かて一緒や。

ー…せやけど俺は師範みたいな勇気なんて持ってないねん。堪忍な師範。好きや。ほんまに、むっちゃ好き。せやけどあかんねん。こんなんあかん、せやから、

「冗談止めや、師範テスト勉強で頭おかしくなったんやないん?」
俺は師範から目を逸らして、なるべく軽く聞こえるように流す事にした。

それでも師範は「冗談とかやなくて、ほんまにお前が好きなんや」と云ってきて、俺は思わず声を荒げる。
「男同士で好きも何も無いやろ…っユウジ達やないんやから…!」
「違う、健二郎、」

「…っ俺達、友達やんか…」

吐き捨てるようにそう呟けば傷付いた様に見開かれた瞳にじくりと胸が痛む。
せやけど師範はすぐにいつものように穏やかな顔で、「せやな、すまん、小石川」と微笑んだ。

優しい彼を、傷付けた事は明白だった。
本当は自分も好きだと告げたかった。告げて、抱き締めて、欲しかった。

でも俺はそんな事しない。
そんな事をして、関係が壊れたら?
今はよくともいつかズレが生じる。
どこからかおかしくなって。もしかしたら友達以下にも戻れなくなるかもしれない。
そんなのは絶対御免だ。
そうなるくらいなら俺は…

(…今のままで良い)


変わってしまうのが、
この時の俺は何よりも怖かった。


end



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中途半端っぽくてすいません…
書き始めたのは良いものの
自分がしんどくなったので
切り上げました。

こいちゃんは根本的に
愛される事になれていない子だと
すごくおいしいと思います。







――変化なんていらない――




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