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ありがとうとおめでとうを

―――――――――――――


そわそわ、そわそわ。
とにかく俺は、落ち着かなかった。


「どしたん小石川」
「えっ、な、なにがや」

自分でも明らかに態度に出ていたのはわかっているが謙也に声をかけられてもそう答えるしか出来なかった。
なんて云っても恥ずかしい。だってまさか、

「師範の誕生日一番最初に祝いたくてたまらんのやろ?」
そうそう、そんな事云えるわけがー…

「って、白石!?」
思わず頷いていたが、その心の声だと思ったものは明らかに白石のもので、

「ああ、そういう話か」
納得した謙也にもニヤニヤと笑われる始末。
ああくそう恥ずかしい。
いくら部員公認で付き合ってるとは云っても節度は守ってるはずだ。部室でいちゃついたりなんてしない。ハタから見れば付き合ってるかなんてわからないような関係を保っている。それなのに朝から俺がこんなに浮き足立ってるなんて、それもその理由が誕生日なんて、恥ずかしすぎる。

しかしそんな俺なんてお構い無しになにやら他の部員はわいわいと話し始める。
「もー蔵りんったら、今日師範の誕生日ってわかっとったなら何で云うてくれへんの!」
「せやで!云うとったらケーキでも用意したのに、」
金色と一氏昨日コントの打ち合わせで早く帰ったやんか。
「そんなん謙也さんに今から買いに行かせればええやないですか」
「ひかる天才やな!謙也!たこ焼き買うんも忘れたらあかんでー!」
「あ、俺の善哉も忘れたらあきませんよ」
ちょっとお前ら誰の誕生日やと思っとるん。
「お前らええ加減にせえっちゅー…つか千歳はどしたん」
「あ、ほんまや、あいつまた…」
せ や か ら !
「っせっかく師範の誕生日やのに
【ガチャ】
お前らええ加減にしろやボケェ!」

「…」
「…」
「「「「「…」」」」」

「お、おはようさん、」

死に、たい。


なんでこのタイミングで入ってくるんや、なんて師範に文句云うてもな…。がっくりと肩を落とす俺に中途半端に気を使ってくれた白石達は「ほな、ちょっと早いけど今日はあがろうか!また放課後、部活でな」と教室に戻って行った。ちゅうかこれ完全に逃げたやろ。
「あ〜…ほんまなんやねん…」

「…健二郎、」
うだうだとしていると不意に名前で呼ばれてハッと顔を上げる。下の名前で呼ぶのは大抵そういう雰囲気になった時とかで、つまり、

「師範、ここ…部室、」

バクバクと心臓がうるさい。いくら誕生日やっちゅうても、まさかこんな朝から、そう思いつつも期待してしまう身体が憎いわ。
ゆっくりと近づいてきた師範と、ロッカーに挟まれてしまう。顔が近付けられ、思わず目を瞑れば、くつくつと音がした。
「…し、師範…?」
「嘘や。流石に儂も学校ではせん」
からかわれた。師範は普段じゃ有り得ない程の悪い笑みを浮かべている。なんやねんそれ。
「師範のアホ!最低やぞ!」
恥ずかしさにがすがすと師範の胸を叩けば、不意にその腕に包まれて俺は思わず息を詰める。
「し、はん、?」
「…云うてくれんのか」
「え、…あっ」
うっかりしていた。朝からそれしか考えていなかったのに。
「えっと…」
「…」
ああああかんて!抱き締められて、いざ云おうと思ってもこんな改めてやと恥ずかしさが尋常じゃないやんか!
せやけど今云わんと俺が一番じゃなくなるんは明白やし、そんなん絶対嫌や。
少し身体を離して数回深呼吸をする。ゆっくり顔を上げればそこには穏やかに微笑む師範がおって…。

「産まれてきてくれてありがとう…あ、愛しとるよ…誕生日おめでとうしは、…ぎ、銀…」

顔が真っ赤になっとるのがわかる。何より師範の視線が恥ずかしい。名前で呼ばれるんは予想してへんかったんか、数度瞬いて、嬉しそうに微笑むと師範は再び腕の中へ俺を引き寄せた。
「ありがとうな健二郎。儂も…愛しとる」
ぎゅううって、音がなるんじゃないかと思うくらい強く抱きしめあって、俺らはこっそり触れるだけのキスをした。


(来年も再来年も、ずっとずっと
 先の未来も、誰よりも先に祝いたい)



end



**********


初銀副小説…!

最初辺り健ちゃんのキャラが
行方不明ですいません…!

なんなんだこいつら何がしたいんだ!

いつも以上に意味わかんないですが
取りあえず師範誕生日おめでとう!!






――ありがとうとおめでとうを――




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