何度でも好きになる
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「お互い忘れてしもた方がええて」
謙也さんは笑っていたけど、きっと俺は忘れられないのだろう。
(どうやったらあんたも俺を忘れないでいてくれるん、)
ぐるぐるぐるぐる、そんなくだらない考えが脳内をひたすら駆け巡っていた。
「なんや謙也、また彼女変わったんか」
別のクラスの為廊下で彼女と別れればそれを見た白石が呆れたように呟いた。
「…またってなんやねん」
「また、やろ。」
前の子なんか二週間もたんかったやんか、と溜め息を吐かれて俺はむすりと顔をそらした。
白石が云いたい事はわかってる。暗にあの事を責めているんだ。それでも俺は、もうどうする事が出来ない事を知っている。
「…あーあ、可哀相やなぁ」
…席に着きながら聞こえた、白石の呟きがちくりと胸を刺した。
図書館で勉強をしていたが、中々捗らずに結局今日は帰る事にした。別に焦る必要もないのに早歩きしてしまうのは昔からの癖みたいなものだ。しかし今日はそれを心の底から嫌になった。
「った、」
曲がり角の死角でぶつかったのは、部活を引退してからはほとんど会う事がなくなった後輩。
「、謙也、さん」
「財前…」
部活に行こうとしていたんだろう彼はまだ制服で、今なら連れ去ってしまえる。なんておかしな事を考えてしまう。
「…」
「…」
しばしの沈黙を破ったのは財前だった。
「部活、行かなあかんので…」
軽く頭を下げて横をすり抜ける彼に、まるで捨てられたような錯覚に陥る。
「ざいぜ、」
思わず振り向いて呼び止めれば、びくりと肩を竦ませられる。こちらを向かないまま、財前は「なんすか」と呟いた。
「今日、部活終わったら、」
(あかん)
どくどくと心臓の音が響く。
「一緒に、」
(やめや、)
自分で何を云い出そうとしてるのかがわかって背筋を汗が伝う。
「謙也さん」
「、な、なんや?」
けれども俺がそれを云い切る前に財前が口を開く。
「…もうそういうの無しにしようっちゅーたん、謙也さんやろ」
(あ)
顔は見えないけれど、語尾が震えたのがわかる。
(泣かしてしもた)
…今から部活行くっちゅうとるのに引き止めて何してんやろ俺。一気に後悔が押し寄せる。
何も云えなくなって黙り込んでいると、財前が小さく呟いた。
「俺はいつだってあんたが好きなままなんや…」
「、」
ひゅ、と息を吸い込む。ああ、あかん、泣きそうや、すまんっちゅーのと、なんやろ、嬉しい。
くっと財前が涙を引っ込めて振り返った。
ちなみに数ヶ月前に、俺が別れを告げた時もこうやった。
「謙也さん、あんたが別れるっちゅーたから俺は我慢しとる、せやけど、」
そうやってあんたが揺れてるなら俺は遠慮なんかせえへんよ。
そう云いながら真っ直ぐに見つめられ、俺は息を詰める。
「いつだって奪ったるから」
そう囁いて、財前は部活に向かっていった。
「…なんやねん、」
部活生の声が聞こえる廊下で1人、俺はへなへなと座り込んだ。 数ヶ月前、財前が部長になって迷惑になったらいかんと思って別れを告げた。かっこよく別れたつもりやったのにこのザマかいな。
「あー…沙代ちゃんに謝らなあかんわ」
携帯を取り出しメールを打ち込む。
結局、惚れ込んでしまってるんやからこうなるんはわかっとった事なんや。せやけど、あれはいかんやろ。
「あー…あかん、財前ほんまかっこええわー…」
(忘れるどころか惚れ直してしもたやんか)
end
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ちまちまついったにあげたもの。
ログにぶち込もうかとも
思いましたがせっかく文なので。
しかし相変わらず最初に
書きたかったのと違うwww
――何度でも好きになる――
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