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その気持ちの名前はね

―――――――――――――


『会いたい』
と思うようになったのは
いつからだっただろうか。


「なんや金ちゃん、元気ないなぁ」
「謙也…」
くしゃりと髪を撫でられ、わいは首を捻って謙也を見やる。謙也はどうした?と首を傾げて、柔らかく微笑んだ。

「…試合とかやなくて、会いたいねん」
誰に、とは告げなかったが謙也は少し考えて「成程な」と苦笑した。

「金ちゃんはあいつん事ごっつ気に入ったんやなー」
その言葉に一瞬戸惑う。
「気に入る、とはなんや違う気がする…」
そうなん?と不思議そうに云われ、あ、否気に入るという表現が違うことも無いが、と考え直す。
しかし上手く表現出来る言葉がない。
わかっているのは、試合などしなくても(勿論可能ならしたいが)良いから、会いたい。会って、話して、笑いかけて欲しい。
そう思っていることだけ。
「コシマエ会いたいなぁ…」
「会いに行けばええやん」
ぽつりと呟いた言葉にはたと気付いたように云われてわいは「え、」と言葉を返す。
「会いに行けばって…」
ここは大阪やんか。わいにしてはごっつまともな答えやのに謙也はけろりと云ってのけた。



「で?」
なんであんたがここにいるの?と呆れ顔で云われて、わいはちょびっとだけ凹む。
コシマエは、わいが来たら迷惑やったんやろか。少しも会いたいなんて思ってないんやろか。そう思っていれば、「取りあえず目立つから移動するよ」と腕を引かれて、あ、と思った瞬間に手に握り替えられて少しだけびっくりする。
「コシマ、」
「あんたどこ行くかわかんないから」
わいの考えを読んだみたいに、そう答えるコシマエはどことなく照れくさそうで頬が緩む。良かった、迷惑ではなかったみたいや。

「で、なんであんたがここにいるの?」
少し歩いたとこにあったマックに入ってされた二度目の問いかけに、わいはそれまでの経緯を説明した。

「ほんでな、「金ちゃん静岡から東京に行ける位なんやから電車使えばコシマエに会うのなんて一発やで?」て謙也が!」
「…」
少しの沈黙の後、はぁぁぁあああ…と大きく溜め息を疲れてわいはびくりと身を竦めてしまう。やっぱりなんやいかんかったやろか…?
「今日金曜日だけど、学校は?」
「今日は創立記念やって、」
ああ、まぁそれなら、と返されて、わいはようやく気付く。

「コシマエもしかして予定入っとる…?」
わいは三連休やから、週末お泊まりして、とか色々と考えていたが、そんなのコシマエに何も連絡していないのだから予定が合わなければ意味がない。会う事だけで頭がいっぱいでそこまで考えていなかった。
泣きそうになるわいに、コシマエは本日何度目かわからない溜め息を吐くと、ふ、と空気を緩めた。

「、」
「今週はたまたま予定空いてるけど、たまに部活入るから今度来るときはちゃんと連絡してね」
「えっ」
表情はいつものように仏頂面だが、そこに流れる空気は穏やかだ。なにより「今度来るときは」と云われた。
「また、来てもええんか…?」
恐る恐る問えば、「俺からは絶対行かないけどね」と笑われた。わいが好きな、コシマエの自信に満ちた笑み。

(あ、)

ふとそこで自分の気持ちにハッとした。
(そうや、わいは、)

「コシマエの事好きなんや…」
ぼそりと漏れた一言に、一瞬拍子ぬけしたように目を丸くして、またさっきの笑みで返された。

「あんた気付くの遅すぎでしょ」


今までもやもやしていた感情が名を得てあっという間にキラキラしたものに変わる。
今だって、目の前で笑うコシマエを見てると、ドキドキと胸が音を立てている。

(ああー…)



この気持ちって、好き、やったんか!


end


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金ちゃんが自覚するお話。
大分前から両想いです。






――その気持ちの名前はね――




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