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奪わせはしない

―――――――――――――




「好きだって云ったら、君は困るかな」

笑いながらそう告げた不二先輩は、俺が今まで見たどの笑顔よりも綺麗だった。


「…う、海堂!」
「っ!」
桃城の奴が耳元でいきなり叫ぶから俺は驚きのあまり声すら出せずに飛び上がる。
べ、別に本当に飛び上がったわけじゃないからな。表現の話だ。

「っにすんだ桃城てめぇ!」
「さっきからずっと呼んでるのに呆けてるお前が悪いんだろ!」
「あ?さっきから?」
「、海堂やっぱりお前体調でも悪いんじゃ」
不安そうに眉を寄せる。らしくねぇ。

「変な心配してんじゃねぇよ。…昨日普段より少しメニュー増やしたから眠いだけ…」
云って、しまったと思う。
こんなんじゃまたソンくらいでだらしねぇなとかからかわれるに決まってる。
しかしそれに対して桃城は更に不安そうにするだけだった。

「そ、か。あんま無理しねぇで、今日はちゃんと寝ろよ」
おいどうしてくれる鳥肌立っちまったぞ。
でも恐らくこれじゃ何を云ってもこの調子だろうから諦めて部活に行く用意をする事にした。


「なんだか眠そうだね海堂」
部活が終わり、制服に着替えていると心地良いテノールが耳をくすぐる。

「す、すんません」
しかし発言は恐らく部活中のミスを指摘するもので、俺は慌てて頭を下げた。

「乾から聞いたよメニュー、増やしたんだっけ?」
「えっ?あ、はぁ…」
予想とは違う切り返しに俺は素直に頷く。
「凄いな海堂は。僕も見習わないと」
「は」
「でも睡眠は大切だからね。今日はちゃんと寝るように」
綺麗に微笑まれ、俺は顔が熱くなるのを感じる。あの人は美人だ。少々女性っぽさもあるが、そういった意味とは少し違う、美人。
更にテニスプレイヤーとしては天才と呼ばれる程の人間だ。そんな人に、「見習わないと」と云ってもらえた。嬉しさで頬が緩んでいる気がする。
鼻歌でも歌いそうになりながら部室を出れば、仏頂面な桃城が立っていた。

「嬉しそうにしてんじゃん」
面白くなさそうにそう告げられ、俺は何の話だ、と睨みつける。
しかし日常だからか気に止めずに桃城は俺の腕を引っ張り歩き始める。

「っ、離せ桃城っ」
しかしそれには無言で、腕を掴む手に力が込められ、俺は小さく息を吐く。こうなるとどんなに喚いてもこうだ。昼はあんな態度とっておいてなんだ、と云いたい気持ちもあったが、きっと何も返されないだろう事を予想して俺は黙って着いていく。

「…何怒ってんだ」
黙々と歩き続ける桃城に流石に声をかければ、「怒ってるわけじゃねーよ」と足が止まる。
「じゃあなんだ」
真っ直ぐに見つめそう問えば、一瞬視線をさまよわせて、大きく息を吐くとか桃城は唐突に俺を抱き締めた。

「も、」
「不二先輩がさ」
(は?)そこで、この状況で何故その名前なんだと思えば、気まずそうに桃城は呟いた。
「お前の事好き、かもしんねぇんだわ」
だからさっき先輩と話してるの見て嫉妬したのだ、と抱き締める腕に力を込められ俺は目を何度が瞬かせ、言葉を理解しようと努める。

「な、なんの話だ」
あの人が俺をなんてあるはずがないだろ、と体を一旦離しそう問えば、「今日の昼休みにはっきりと本人に告げられた」と答えられた。
「俺だって冗談と思ったけどよ、さっき、お前と話してたじゃねぇか。それ見てやべぇなって…」
お前の体調に気付くなんておかしい、意識して見てねぇと、単純にミスとして片付けるレベルだ、とぶつぶつ呟く桃城に俺はむすりと顔を背けた。
どんな事かと思えばそういう話か。

「だからってなんでてめぇがそんなに不安になる」
「あ?…そりゃ、相手は不二先輩だぜ?そんなの、」
チッと大きく舌打ちして襟元をグイと引き寄せる。
目の前の顔は、ぱちりと一度だけ瞬きぽかんと呆けた。

「俺が好きなのはテメェだって云ってんだから、相手が誰だろうと不安がってんじゃねぇよボケ」

フン、と鼻を鳴らして踵を返せば、後ろから「お前今のデレは卑怯だろ!!」という叫び声が聞こえたが、俺は知らないふりをした。



(不二先輩、昨日の話っすけど、俺負けないっすからね!!)
(へぇ、自信ついたんだ…昨日あの後なんか云われたの?(笑))
(Σえ?)
(まぁ良いやそれは宣戦布告を受け入れるって事で良いんだよね)
(えっ、否不二先輩それはちょっと違っ)
(僕に勝つには、まだ早いよ桃)
(あ、諦めて下さぃいい!)


 end



*********

海堂からどんだけ勇気もらっても
桃は不二には勝てないよねって話。

冒頭はわかりにくいですが
不二が桃に云った台詞です(笑)







――奪わせはしない――




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