きみのこころが言葉になった日

「・・あ、ぶっ・・ぷっ・・」

「おっ!なんじゃ、なんと言いたいんじゃっ?」


奏海(かなた)を抱き、顔を近づけて嬉しそうに話しかける龍馬さん

私にとっては、もうすっかり見慣れてしまった光景なんだけど、ね・・・

なんて思いつつ、お膳を並べながら、ちらりと視線を向けると


「見ていて鬱陶しいこと、この上ない・・・」

「龍馬さん、一段とひどくなってるっスね・・・」

「あの馬鹿親は、どうにかならんのかっ!」


呆れたように溜息をつく3人が居て

その言葉に、苦笑いが浮かんでしまう



元々、奏海にべったりだった龍馬さんが

ここ最近は、それに輪をかけて、激しさを増しているんだけど

その発端となったのが


「・・・ぷっ・・・たっ・・」

「そう、その調子ぜよっ!」


これ、だったりする・・・



「あ」とか「ぶっ」とか、意味不明な音ばかり発していた奏海が、今までとは違う音を発するようになってきたのが、つい最近のこと

それに気づいた龍馬さんが、奏海がしゃべるのは、もうすぐじゃ!と、言い出して

初めての言葉を聞き逃してはならん!と、時間が許す限り、奏海の傍から離れようとしなくなってしまった・・・




そして今日、久しぶりに夕餉を食べに来てくれた、武市さん、以蔵、慎ちゃんは

輪をかけた龍馬さんの姿を目の当たりにして

ただ呆れてしまっている、と・・・・

だけど、奏海に夢中の龍馬さんは、そんなことは、全く頭に無いようで

夕餉の支度が整っても


「奏海、『ぱぱ』じゃ、『ぱぱ』と呼ぶんじゃ」


変わらず、この調子だ


「ええいっ!鬱陶しいっ!いつまでやってるつもりだっ!」

「龍馬さん、そろそろ飯にしたいんスけど・・・」

「馬鹿親もたいがいにしないと、奏海とれんさんに愛想付かされるぞ」


あ、皆、お腹空いてるから、そろそろ限界なのかも・・・

仕方ないなぁ、ほんとにもう・・・

思わず笑い出したくなるのを、ぐっと堪えて


「龍馬さん、そろそろ、ご飯にしましょう、奏海おいで」


龍馬さんが抱き上げている奏海に、手を伸ばした


「おっ?こりゃこりゃ、もう支度が整ったんか?」

「もう!龍馬さんが座るのを、皆待ってるんですよっ!」

「こりゃあ、すまんかったの、ほいじゃ、奏海」


にししっと笑いながら、奏海を自分の顔に近づけ

こつりと、額をくっつけると、可愛らしい笑い声を上げながら、小さな手が龍馬さんの髪を、きゅっと掴んだ


「おっ!こりゃあ、困ったのう、奏海はまぁだ遊びたい言うんか?」


あ・・・今、3人から、ぴきって何かがヒビ割れたような音が聞こえた気が・・・


「りょ、龍馬さんっ!そんなこと言ってたら、何時まで経っても食べれませんからっ!ほら、奏海も手を離して、ね?」


小さな手をそっと開いて髪を外させて、龍馬さんから奏海を受け取ろうと、再び手を伸ばす


「おお、すまんすまん、奏海、また後で、遊ぶぜよ」
笑う龍馬さんから奏海を受け取ると、離れちゃ嫌だと言わんばかりに、奏海が小さな手足をばたつかせ














「・・・じぇぉ・・っ・・・」










・・・・・へ?









「奏海っ?い、今、なんとっ?」


慌てたように再び奏海に顔を近づける龍馬さん

それが嬉しいのか、にこにこと笑顔になった奏海の口から


「・・・っ・・じぉ〜」

「おおっ!奏海が、しゃべったぜよっ!!」

「・・・じぇぉ〜」

「おおっ!またじゃっ!また、しゃべったぜよっ!」


でかした奏海、と、はしゃぐ龍馬さんが私の手から奏海を奪い取ると

嬉しそうに声をあげながら、奏海がまた笑う





うん、しゃべった

確かに、奏海が、しゃべったように、聞こえた

だけど・・・





今のって龍馬さんの口癖の「ぜよ」だよ、ね?




思わぬ言葉を発せられたことで、少し呆然としていると





「初めての言葉が『ぜよ』というのは、問題だな・・・」

「そうっスね・・・」

「はい」






・・・・へ?






ふと見ると、3人の顔には、なぜか悪戯っぽい笑みが浮かんでいて・・・

な、なに?なんで、そんな楽しそうな顔になってるのっ?

状況が飲み込めない私をヨソに、立ち上がった3人が龍馬さんと奏海の傍へ歩み寄った・・・


「おんしらも聞いたじゃろっ!奏海が、しゃべったぜよっ!」

「ああ、しっかりと聞いた」


興奮を隠し切れない龍馬さんの言葉に、3人が、ずいっと奏海に顔を近づけたかと思ったら・・・


「奏海、たけち、だ、ほら、言ってごらん」

「しんちゃん、っスよ、し・ん・ちゃ・ん」

「せんせい、だ、わかるな、奏海」


・・・・はいっ?


「おっ、おんしら、何を言い出すがじゃっ!」

「お前の土佐言葉ばかりを聞かされるのは、奏海にとっても良くないだろう?」

「なっ!要らん世話じゃっ!奏海はワシの息子なんじゃぞっ!」

「武市さんの言う通りっス、ほら奏海、し・ん・ちゃ・ん、しっかり、覚えるっスよ」

「せんせい、だ、しゃべってみろ」

「中岡っ!以蔵っ!要らんことを、教え込むなっ!」


奏海を取り囲んで、ぎゃいぎゃいと騒ぐ4人の姿に、呆気にとられたものの・・・

大真面目な顔の龍馬さんと、楽しそうに茶化す3人

4人に囲まれて、嬉しそうな笑い声を上げる奏海

その光景が次第に可笑しくなってきて

なんだか、ふわっと温かいものが、胸の中に広がっていって


4人とも、ホントに、もうっ


つい、くすくすと笑みが零れてしまう






















「ほら、たけち、だよ、た・け・ち」

「ええ加減にせいっ!奏海には、ワシがっ」

「・・・いぃ・・」

「おっ、これは、たけちの『ち』だね、よく言えたね奏海」

「え?しんちゃんの『し』を言いたいんっスよっ!」

「せんせいの『い』だろうっ!!」

「違うぜよっ!今、ワシが言うたコトを真似しようとしたんじゃっ!」



空腹だってことも、綺麗さっぱり忘れ
すっかり白熱化してしまった4人の言い争いが終わりを告げたのは

それから四半刻ほど、後のこと・・・



〜終〜


****************

またまた『Runatic』の更紗様から頂きました、龍馬さんの親馬鹿ぶりなお話です(笑)わ〜ごめんなさい〜。

でもきっと龍馬さんならご飯を食べるのも忘れて、子供に溺愛してそうな感じですよね♪また最初に喋った言葉が「〜ぜよ」なんて可愛い〜♪頑張って教えた甲斐があったね、龍馬パパ!寺田屋メンバーからも沢山構って貰える奏海ちゃんが羨ましいお話でした。

あと、以蔵が「せんせい」と教えたのにはウケました。どこまでも先生ラブなのねw

お忙しい中、素敵なお話を2つも書いて下さり、本当にありがとうございました!龍馬パパ万歳〜\(^O^)/

更紗様の素敵サイト/Runatic

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