白銀の狂詩曲【短編】 | ナノ


 穿つ  




ピアスをするのは好きだ。穴を開けるのは大体自分でやる。だが、基本的に耳にしかしない。目元や鼻にするのは趣味では無いし、口や舌にすると邪魔になる。臍もそうだ。
行きつけの装飾品店でピアスと共に道具を購入し、ニードルを使って穴を開ける。右と左、それぞれの耳に常に数か所開けた状態にしているが、仕事等で管理を怠り、塞がってしまう事も少なくない。更に言えば、死んだ時にピアスが外れていると、その穴は確実に塞がってしまう。自己再生能力が高いのは、こう言う時に不便だと、思わなくもない。
穴が塞がる度に開け直すのだが、その光景を一度ジェレマイアに見られた事が有る。ピアスをしない彼は、己が持つニードルを見て『そんなの耳に刺すんですか!』と悲鳴を上げた。一回位、お前もやってみるかと聞いて見れば、彼は勢い良く首を左右に振った。若い女でも平然とやっているのにと、その時はただ苦笑いをして済ませたのを覚えている。

他人に耳を触られるのは苦手だが、己自身が触れる分には何の問題も無い。消毒を済ませたニードルで耳朶の肉を貫く感覚は、こう言うと誤解をされそうだが結構好きだ。つぷり、と食い込み、皮膚を裂き、肉を穿つ。僅かな痛みと共に生まれた穴へ、新たなピアスを嵌め込む。その瞬間の心地良さを以前マスターに語ったら、理解出来ないと一蹴された。

さて、そんな己だが、一体何処で誰が聞き付け、広めたのか。『銀月はピアッシングが上手い』と言う、妙な評判が南エリアに浸透してしまっている。実際は其処まででも無いと思うのだが、己にピアスの穴を開けて欲しいと言う依頼が偶に有る。勿論、その度に自らの腕の保証は無いと説明している。それでも、依頼したいと言う輩は後を絶たない。わざと依頼料を高く設定しても、己が良いと言って頼み込んで来るのだ。どうして其処までして己に頼みたいのか、理解に苦しむ。
ピアッシングの依頼の殆どは耳だ。男も女も、大体の者は耳の何処かにやって欲しいと言う。それは問題無い。困るのは、耳以外の箇所にやって欲しいと言う依頼だ。顔面ならまだしも、人によっては乳首や舌にやってくれと頼んで来る。流石に其処は、と渋ると報酬金を上乗せし、せがまれた。そうなると後で何かあっても文句は言うなと念を押し、致すしかない。

過去にやって来た中で一番困ったのは、性器――ペニスにピアッシングをして欲しいと言われた事例だ。彼は自らを超が付くドMだと言い、己に見下されながらピアッシングをされたいとやって来た。即断ったが、男は大金を積み、ピアッシング後の衛生管理は自己責任で行うからと食い下がった。当時金欠気味だったとは言え、其処で断り切れなかった己を今でも馬鹿だと思う。

仕方なく承諾し、いざ事に及ぼうとして、固まった。ピアッシングをしようとしている彼のペニスは、服の下から見ても分かるほどギンギンに勃起していたのだ。これから行われる、性器への刺激に興奮していたのだろう。成程、自称ドMなだけはあると思ったが、やる側としては非常に迷惑な話だ。
取り敢えず勃起を何とかしようと、何故か己の足で彼のペニスを扱く事になった。否、最初は舐めて欲しいと言われたのだが、口淫は非常に下手である事を説明し、それなら足でして欲しいとなったのだ。

この時点で既に展開がおかしな方向に行っている気がしたが、深く考える事はせず、ブーツを脱いで素足で相手のペニスを扱いた。その際、相手の希望で彼は床に直に寝て、己が立った状態でやる事になった。乱暴にしてくれて構わない、踏み潰す勢いでやってくれと、荒い息遣いの中で言われた。
彼の言葉通りに扱いてやると、呆気無く彼は達した。早漏にも程が有ると、突っ込んでやりたかった。だが此処でその様な事を言えば、彼は再び勃起するだろう。そうしたらキリが無い為、溜息を吐くだけに留め、精液で汚れた足を拭って早々に作業を再開した。

此方の作業を見て、興奮するのならば、見ない様に頼むしかない。視線を逸らすか閉じるかしておいてくれと言い、彼のペニスに触れた。性行為以外で此処まで男の性器を凝視する事が、嘗て有っただろうか。ピアッシング用のニードルを突き立てるのは、ペニスの先端。少しでも手元が狂えば大変な事になる。心臓と、己の性器に悪い作業だ。予めペンでマーキングをし、位置を違える事が無い様にしたが、ペンの先端が触れるだけで嬉しそうに喘ぐ彼が気持ち悪い。

その後、無事にペニスにニードルを刺し、ファーストピアスを入れて作業を終えた。先端で光る銀色のそれに、彼は心底嬉しそうに笑み、頭を下げたのを覚えている。後日彼から連絡があり、アフターケアをしっかりしてホールが安定したと教えられた。要らない情報だった。

己は性器にピアス等、ごめんだと思った。どう見ても痛そうだし、装着する利点が分からない。矢張りピアスは耳だけで十分だと。ペニスへのピアッシングを依頼して来た彼の事を時折思い出し、考える。



そんなニュクスが女の体の際、或る人物によって陰核にピアッシングをされたのは、別の話。




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