白銀の狂詩曲【短編】 | ナノ


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「アタシぃ、アナタの体みぃーんな好きなの。どれと取ってもすっごく綺麗でぇ」


部下の手によって地面に押さえ付けられているニュクスを見下ろし、男は独特の口調その容姿を褒める。
長い銀色の髪に、無駄な脂肪や筋肉を付けないしなやかな肢体、整った顔に、煌く七色の瞳。銀月、と称されるニュクスの姿は、中立都市に住まう者の間では有名だった。
そして、その美しさ故に、ものにしたいと思う輩も少なくは無く。ただ、ニュクスが今回遭遇した人物は、過去に見た記憶の無い顔だった。もしかしたら新顔かもしれない。
そうでなければ今こうして拘束され、自由を奪われる筈は無いのだから。


「さっきのお店でアナタお酒を飲んだでしょ?実はそれにはねえ、お薬が仕込んであったのよ。そこの坊やにお願いしたの」


見覚え有るでしょ?
男はニュクスの腕を掴み、体重を掛けて押さえている小柄な男を指さし、首を傾げる。
確かにニュクスには覚えが有った。先程、新しく出来たばかりだと言う飲み屋を見付け、気紛れに入り、適当な酒を注文した。その注文を取ったのが、今ニュクスを拘束する彼だ。
グルだった。そしてはめられた。南エリアの中でも比較的治安の良い場所だからと、油断していた。今夜はいやに酒の周りが早いと思いつつ、店を出て、暫くしてから体に痺れが出始めた。それが店で飲んだ酒に仕込んであった薬の所為だとは気付かず、今こうして不意を突かれ、抵抗する間も無く捕まってしまった。
ニュクスは己の失態に歯噛みし、男を睨み返した。


「それで、俺を捕まえてどうするつもりだよ」
「あらぁ?今言ったじゃない。私は貴方の体が好きだって」


にこにこと笑いながら近付き、屈み込む男の動作が彼の鳥葬を思い出して気持ちが悪い。
ニュクスの顎を片手で掬い上げ、その顔を堪能する様にうっとりと眺めていた男は、不意に空いている方の手を持ち上げた。咄嗟に逃れようとしたが、薬による痺れの所為で体は殆ど動かず、男にされるが儘、撫ぜられ、やがて目元まで接近を許した。


「特に、このキラキラした目が凄く好きなの」
「…………ッ」


甘ったるい調子で、歌う様に紡がれた言葉に、全身の血が粟立った。本能的に感じたのは、嫌悪感では無く恐怖だった。
男の手がニュクスの右目の縁をなぞり、瞼の下に収まる眼球の形を確かめる様に触れる。
そして、ニュクスが感じた恐怖は次の瞬間、激痛によって一瞬で吹き飛んだ。


「お部屋に飾って、とっておきたい位に」


ぶちぶちぶち、と。細かな繊維が切れる音がニュクスの耳にダイレクトに届く。
一体何が起こったのか、理解するより先に喉から悲鳴が出た。男はニュクスの瞼を強引に開き、指を突き入れ、彼の眼球を掴んで引きずり出した。躊躇無く、慣れた行為だとばかりに行われたそれに、思考が追い付かなかった。


「あ゛ァああああ゛あ゛あ゛あああああああっ!!」
「あーんやっぱり綺麗。宝石みたいだわぁ」


痛みに悶絶し、不自由な体を震わせ、叫んだ。痛い。とても痛い。何の前触れも無く奪われた眼球と視界に、残された瞳から涙が零れた。本来あるべき眼球を失った眼孔は空洞になり、其処に有ったものを繋いでいただろう神経の残骸と共に、大量の血が溢れ、頬を濡らした。
男はニュクスから抉り取った瞳を翳し、建物の間から差し込む月光に当てて煌く様を楽しんだ。本体から離れてもきらきらと輝くそれは、男の言う通り宝石の様だった。


「あ、あぁ……ッ、くそ……クソったれが……!」
「んふふぅ、そういう反抗的な態度、嫌いじゃないわぁ。痛いのに強がって……もっと虐めたくなっちゃう」


激痛の最中、やっとの思いで吐き出した悪態は、どうやら男の嗜虐心を刺激してしまったらしい。化粧を施したけばけばしい瞳の奥に宿ったそれに、ニュクスは戦慄した。
これから行われるのは、きっと過去にも己へ対し劣情を抱いた者達がして来たものと同じ行為だろう。だが、目の前に居る男からは、ただその場で致すだけではない、異様な気配を感じた。


「そのぽっかり空いた穴の中――すごく気持ち良さそうよね」


男の言葉の意味を理解したニュクスは、これから始まる悪夢に唇の間から震える息を吐き出した。


Next..?


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