白銀の狂詩曲【短編】 | ナノ


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「こりゃあまだ掛かるな」
「へえ、お堅い見た目通りの固さって事か」
「……る、さい」


何度も指を抜き差しされ、その度に何とも言えない快楽の様な感覚が駆け抜けて行く。声を上げる事はせず、ただ荒い息を吐く事で何とか誤魔化した。早く、早く飽きてくれ。それか早く来てくれ。此処に居ない存在に心の中で叫びながら、シトリーは身に受ける屈辱に耐えた。


「なあ、もうねじ込んでも良いんじゃねえ?」
「おいおい、せっかちだなあ」
「無理やり突っ込んでも良いが……」


指が引き抜かれ、離れて行く。その話し方から、何か考えがあるのだろう。無理やり挿入される事は無さそうだが、どうするつもりなのか。視線を男の方へと向けると、別の男から鈍く光る『何か』を受け取っているのが見れた。


「孔を作るって手もあるんだぜ?」
「……っ!?」


離れた男がシトリーに迫り、持っているものをちらつかせる。至近距離で見せられる物体が何か分かった瞬間、背筋に悪寒が走った。鋭利なナイフ。先端が向かう先は、己の腹部で。
まずい。これは非常にまずい。無駄だと分かっていても、これから男がしようとしている行為を止める事が出来ない。逃げる事も出来ない。孔を作る。その言葉の意味は嫌でも分かる。
必死に身を捩り、逃れようとするが、体に浸透している毒と他の男達の手に阻害され、どうしようもない。嫌だ、やめろ。掠れた声で訴えても、男の耳には届かず。腹部にあてがわれたナイフは、次の瞬間やわらかな肉に食い込み、上から下に向かって一気に裂かれた。


「っあああああああああああああああああ!」


激痛と共に鮮血が溢れ、腹部を濡らす。苦痛から逃れようと体は無意識の内に動こうとするが、矢張り上手く動かない。それでも、男達が慌てて押さえ付ける程には大きく動いたらしい。痛い。とても痛い。こんな痛み、今まで感じたことが無い。


「おーおー、綺麗なモツちゃんじゃねえーの」


裂けた部分を強引に押し広げ、中にある臓腑を見て、男が嬉々とした声を上げる。大量の血が溢れ、身を汚す中、シトリーは今までに感じた事の無い苦痛に悶え、震えた。他者より幾らか体が丈夫に出来ている自覚はあるものの、矢張り腹を裂かれるのは負担が大きい。
びくびくと震える体を押さえ付け、男はぱっくりと開いた傷口に手を突っ込み、中を掻き回す。体内を蹂躙する動きは気持ちが悪く、吐き気がこみ上げて来る。ぐちゅり、ぐちゅりと。耳障りな音が耳に届き、それが自分の腹部から発せられていると思うと頭がどうかしてしまいそうだった。


「いぐっ、い、あぁあああああああああああああ! ……ッぎぃい!」
「へっへ、コイツはヤりがいがありそうな孔だなあ」
「これで可愛い声で鳴いてくれりゃあ、言う事無いって……なァ!」
「――――っ!」


視界の端で、男がズボンの中から赤黒く勃起した性器を取り出すのが見えた。まさか、それを。それを腹部に挿入すると言うのか。男が今からしようとしている行為に戦慄が走る。冗談ではない。それならまだ尻の穴に無理やり突っ込まれた方がましだ。傷口に、更にその奥にある内臓に性器を押し込むなんて、狂っている。
しかしどう足掻いても男達から逃れる事は出来ず、性器を取り出した男がシトリーの上を跨ぐと、拒む間もなく傷口に性器を突っ込んだ。


「い゛ィ――ッ!」
「あー……! あったかくてたっまんねえなあ!」


男が性器を挿入した事で互いの身が密着し、更に重圧で潰されそうになる。普段ならば簡単に押しのけられる所だが、今の状況では苦痛に耐える事しか出来ない。激痛と異物感に一瞬意識が遠のくが、腰を掴まれ、揺さぶられた事で直ぐに現実へ引き戻される。


「すっげーな、真赤っかじゃねえか」
「しょーがねえだろ、強引に作った孔なんだからよ」
「締まりはどうだ?」
「やっぱケツ穴に比べたら、緩いけどよお……すっげえ熱くて、これはこれで、イイぜぇ!」


うるさい。うるさい。うるさい。男達の品の無い会話も、腹部で鳴る水音も、喉が枯れる勢いで出る自分の悲鳴も。何もかもが不快だった。痛いし、気持ち悪いし、苦しいし。何より、屈辱だった。どうして自分がこんな目に遭わなければならないのか。善意で男達を教会の中へ招き入れたのがそもそもの間違いだったのか。痛みに悶える中、頭の隅で何故か冷静にこれまでの事を振り返る自分が居た。もしかしたら、この受け入れがたい状況に対する現実逃避なのかもしれない。


「ああ゛あァあああああっ、あ、ぎぃ、いいいいいいいいいいいいいッ!」
「おいおい、何時まで腰振ってんだよ、そろそろオレにもヤらせてくれよ」
「おう、もうちょっと、もうちょっとだからよ、待っててくれよ」


早く終わって欲しかった。そうでなければ、いっそ殺して欲しかった。気が狂いそうだ。何とかしたい。何とかして欲しい。誰か、誰か――


「は、へっ……!?」


その時、何が起こったのか良く分からなかった。執拗に腰を振り、揺さぶっていた男の動きが止まり、間抜けな声が上がる。動きが止まった事により、激痛と不快感が幾らか和らぐ。
濁る視界を正面に向けると、男の周囲に黒い羽が舞っていた。




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