白銀の狂詩曲【短編】 | ナノ


 死との交わり  




診療所の扉が叩かれたのは、日付が変わって間もない頃だった。 寝る為の準備をしていたキコは、その乱暴な叩き方に嫌な予感がした。助けて下さい、ニュクスくんが死にそうなんです。扉越しに聞こえる馴染みの声に、思わず苦笑する。嗚呼、やっぱりそうかと。

外に立っていたのは、扉を叩いた本人であろうジェレマイアと、彼の肩に凭れ掛かり、ぐったりとしているニュクスだった。今は女の体の様だ。ジェレマイアよりもやや小柄な彼女の腹部からは、夥しい量の血が溢れ、地面を濡らしている。何があったのかと、聞くより先に二人へ中に入る様促した。

錯乱状態になっているジェレマイアを宥め、後は自分がやると言ってキコはニュクスを担ぎ、治療室へ入った。ベッドの上に彼女を寝かせ、顔を見ると、既に真っ青になっていた。呼吸は辛うじてしているが、止まるのは時間の問題だろう。腹部に有る傷を見て、キコはそう判断した。

誰にやられたかは分からないが、外部だけでなく、中の内臓も損傷している。致死量に相当する血が失われているのだろう。手術をするべきか、否か。悩んだ末に、キコは治療を施す手を止めた。無駄だ。彼女はもう助からない。これ以上延命措置をした所で、苦しむ時間が長くなるだけだ。

鎮痛剤だけ投与し、様子を見る事、一時間。彼女は息絶えた。心臓の動きが完全に止まったのを確認し、カルテに記入をしようとした、その時だった。彼女の手に軽く触れた瞬間、僅かに感じた体温に全身の血が粟立った。生きていた時に比べれば冷たいそれは、死が彼女から熱を奪っているからだ。

徐々に体温が失われていく彼女の体に、下半身が熱くなるのを感じた。死んだばかりの女体。投げ出された細い手足。真っ白な顔。 我慢等、出来る筈が無かった。治療室の扉が施錠されているのを確認すると、キコはベッドに乗り上げ、彼女の下肢を覆う衣服を剥ぎ取り、足を掴んで開いた。

乾ききった秘部に、強引に自らの性器を突き立てる。慣らしも無く挿入した為、入り口が裂けて血が滲んだが、構いはしなかった。どうせ死んでしまった身だ。そして、数日経てば蘇生する身でもある。大した問題にはならないだろう。

彼女の細い両足を抱え上げ、身体を密着させ、子宮の最奥を穿つ様に腰を律動させる。締め付けは無いに等しい。それでも、この徐々に熱が失われて行く体との情交は、キコを酷く興奮させた。生きている女には興味が無い。どんなに美しい姿を見ても、勃起する事は無い。矢張り、死んだ体が良いのだ。

夢中になって彼女を犯し、如何程の時間が経ったのか。絶頂を迎えんとしたキコは自らの性器を一層深く押し込み、その身を大きく震わせる。
最高。掠れた声でそう呟き、決して孕む事の無い、本来の機能を持たない其処へ、キコは溜め込んだ白濁を吐き出した。


「終わったよ〜」
「……っ、キコさん、あの、ニュクスくんは……」
「あー、ごめんねえ。駄目だったよ」
「……そう、ですか」
「取り敢えず葬儀屋には連絡しとくから、エリーちゃんはもう帰りなよ」
「うぅ……っ、はい。有り難う御座います」


相棒の死を知らされ、落胆するジェレマイアを慰める。自分の所為で死んでしまった、と力なく言う姿は不憫で哀れだったが、同時にまた生き返るのに毎回そうへこんでいては持たないだろうと思う。

診療所を出て行く姿を見送り、葬儀屋に連絡を入れるべく端末を取り出す。この後もう一発致す時間は有るだろうか。出来るなら、ここ最近溜まっていた分を発散させたい。
下衆な事を思いつつ、キコは通話ボタンを押し、端末を耳に当てた。



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