白銀の狂詩曲【短編】 | ナノ


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ユリシーズは朝が苦手だ。
元々低血圧で、夜寝るのも遅い。その所為か、目が開いてもベッドから抜け出すのに相当時間が掛かる。二度寝は当たり前で、やっとの思いで起床し、時計を見ると大抵九時を回っている。此処で自宅なら適当に食事を済ませ、大学内ならば食堂で遅い朝食を取る。
魔術の研究に没頭し、自宅に戻る間も惜しむユリシーズが、大学で一夜を明かす事はそう珍しい事では無い。大学側もそれを理解しており、研究室の隣に彼が仮眠出来る専用の部屋を用意した位だ。勿論シャワールームも有り、ランドリーも完備している。大学に貢献している者に許された特権と言えよう。
身形を整え、大学の講義を始める。ユリシーズの講義は早くても二限目からだ。一限目に彼の姿を見る事は無い。寝起きこそ酷いものの、講義中の彼の指導は熱心で、常に分かり易い解説を心掛ける姿勢は、学生達に歓迎されている。性格に少々難が有る、と言われる事も有るが、それでも周囲からの信頼は厚く、多くの者に好かれていた。
午後に遅めの昼食を取り、講義を終えると、ユリシーズは大抵大学の資料室で本を読んだり書き物をしている。読書ジャンキー、本の虫、等と一部の人間からは揶揄されているが、本人は全く気にせず、紙の上の文字をひたすら目で追う。知識欲旺盛で、常に新たな情報を求める彼だったが、液晶画面の文字は苦手な様で、文字を読むのは決まって紙媒体の本だった。
昼が遅ければ、夜の食事も遅い。食堂が空く時間帯に夕食を取り、帰宅すると、浴槽に温めの湯を張り、たっぷり時間を掛けて入浴する。この時も、浴室内に本を持ち込み、湯気でふやけない様に魔術で丁寧に本を保護し、読書をする。
小一時間程浸かった所で風呂を出て、髪を乾かしてから更に本を広げる。長時間同じ姿勢で居ると体が凝る為、時折ストレッチも行う。その辺りは割とこまめにしており、その所為か肩凝りは其処まで酷く無い。
本を閉じ、部屋の明かりを消すのは大体日付が変わってからだ。寝る時間はその日によって違うが、日付が変わる前に寝る事は先ず無い。不健康だと、思わなくも無いが、今の所は不自由を感じていない為、特に何も考えていない。

そんなユリシーズの一日。




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