白銀の狂詩曲【短編】 | ナノ


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「っあ゛ああああ゛う゛ァああああああぁあああっ!」


腹部から全身に駆け抜けて行く激痛に身体は大きく震え、無意識の内に苦痛から逃れようと拘束されている手足に力を込める。しかしベルトによって固定されている為、身を捩る程度の動きに留まった。鋭い刃によって斬り裂かれた部分が焼ける様に痛い。傷口からは大量の血が溢れ、ニュクスの身体と、剣を突き立てた男に飛び散った。鮮やかな赤と、噎せ返る様な血の臭い。それは捕虜を虐げる立場にある者達を酷く興奮させた。


「おーおー、真っ赤な血がどぼどぼ出てんじゃねーか」
「ひゃはは!こいつはまだまだ序の口だぜ?」


下腹部から鳩尾付近まで、縦一文字に刻まれた深い傷。
黒髪の男はニュクスの身体からナイフを抜くと、鮮血溢れる傷口に無造作に手を突っ込み、中を乱暴に掻き回し始めた。ぐちょり、ぐちょりと不快な水音が室内に響き、それと同時にニュクスの絶叫が広がる。手を通じて感じる体内の熱に、黒髪の男が恍惚とした笑みを浮かべ、やがて中で触れている小腸の一部を握ると、それを力任せに引き抜き、照明の下に晒して見せた。


「あ゛あ゛あああァああああああっ!っぎぃいいいい!」
「ひゃーっはぁ!見ろよすっげえ綺麗だろぉ?」
「鮮やかなピンク色ってかー!コイツは良いなぁ!」


引き摺り出された小腸は男達の言う通り、鮮やかな色をしていた。傷口より現れたそれを見て、ニュクスは激痛に苦しむ中、確かに綺麗だと思った。これが己の中に有ったモノか。異様な状況の中、不思議と冷めた思考でそんな事を考え、同時に身体は苦痛から逃れようと全身に力を込めていた。暴れる事で、この拘束が外れ、解けてくれれば。けれど拘束は思った以上に強固であり、ニュクスがどう暴れようと緩む気配が無かった。


「それからこいつをこうして、こう、引っ張る!」


既に凄惨な状態であるにも関わらず、男達は更なる余興を楽しむつもりか。取り出した小腸を更に引っ張り、一部をナイフに絡めると縄を切る様にそれを切断した。ぶちり、と耳障りな音がニュクスの鼓膜を震わせ、最早表現しようの無い痛みを齎す。
苦痛によって意識が朦朧とし、気絶する手前で同じ苦痛で現実に引き戻される。正に生き地獄だった。いっそ殺してはくれないかと、頭の隅で考えもしたが、そんな思いを口にする余裕は無かった。
やがて黒髪の男は千切った小腸の端を頭上にぶら下がっている滑車に通し、未だ体内に収まっている臓器を抜き出そうとロープの様に引っ張り始めた。


「ひぎぃあああ゛あ゛ァあああああああぐぁああああああああああああああああ!」
「げはははは!人間の小腸ってのはながーいんんだぜ!お前らもちゃーんと見とけよぉ!?」
「伸びるのびーる何処までも伸びるってな!このまま胃袋まで引っ張り出しちまうかぁ!」


がらがら。がらがら。
滑車に呑まれた小腸が伸び、豪快に晒される。何とも悪趣味で、残酷なショーだ。未だ生きている捕虜達はそのえげつなさに震え、視線を逸らし、嘔吐する。こんな事が、現実にあって良いのか。否、あって良い筈が無い。男達は最早人ではない。ヒトの皮を被った悪魔だ。そうでなければ、生きた人間にこの様な仕打ちをする筈が無い。
イカれている。狂っている。ニュクスを含め、この部屋に捕らえられている者達は皆そう思った。


「い、い゛ぁああああああああっ、ごの、くぞがァあああああああ!」


男達の耳障りな笑い声が不愉快で仕方が無い。
けれどそれよりも、腹部より生まれる苦痛が耐え難く、気が狂いそうだった。痛い。痛い。とても痛い。今までに様々な拷問をされたが、此処まで痛いのは初めてかも知れない。いっそ殺して欲しかった。否、


――絶対、絶対殺してやる。


己は何れ死ぬだろう。だが、己を苦しめる彼等を許す事は出来ない。必ず、報復を。己が受けた苦痛を、屈辱を、何倍にもして、返してやろう。そうしなければ、己の気が済まない。
言葉にはせず、胸の内でそう誓いを立てて。引き出される臓器が小腸から上の部位に差し掛かろうとした所で、ニュクスの意識は途切れた。




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