白銀の狂詩曲【短編】 | ナノ


1  




嗚呼、しくじった。
捕虜となった者達の悲鳴が響き渡る中、ニュクスは舌打ちした。

事の始まりは、紹介された仕事の依頼。国境地帯で交戦中の帝国軍に紛れ、各地で略奪行為を行っている盗賊団を殲滅して欲しいと言うものだった。良く有る内容で、報酬の額も破格であった為、気安く請け負った。
標的となった村で同じ仕事を請け負った仲間と共に迎撃し、一時は有利な状況に立つも。予定していた増援は何時まで経っても到着せず、逆に敵側に予想以上の増援が現れ、消耗戦の末、ニュクス達は敗北した。後で分かった事だが、増援の者達が依頼主を裏切って敵側についていた。どうやら依頼主よりも良い報酬を提示され、それによりあっさり見切って其方へついたのだとか。良く有る話だが、一度は契約を交わした相手を簡単に切ってしまう彼等の薄情さに腹が立つ。
多勢に無勢。疲弊した所を捕らえられ、拘束された。そうして彼等がアジトとしている、既に使われなくなっていた砦へ連行され、今に至る。


周囲にはニュクスと同じ様に服を剥かれ、全裸で拘束されている者達が数多くいる。どれも見目の良い男女であり、これから何をされるのか分かっているらしく、或る者は恐怖に震え、また或る者は奥歯を噛み締め、気丈に耐えている。皆戦闘の際に選別され、生き延びた者達だ。それ以外の者は、此処に来る前に殺されてしまった。
目の前で赤い髪の青年が首を切り落とされた。傷口から溢れる鮮血が床を濡らし、それを見た男達が下品な声で笑う。飛び散る血を浴びた捕虜の一人がひっと声を上げ、その瞳からぽたぽたと涙を流した。


「この別嬪はどうする?」


その光景を眺めていると不意に背後から髪を鷲掴みにされ、持ち上げられる。痛いからやめろ、と。声に出す代わりに睨んでやったが、その程度で男が怯む筈も無く。にたにたと粘着質な笑みを浮かべ、舐める様に己の顔を見て来る。不快な眼差しに唾を吐きかけてやりたかった。しかし、それを実行に移す前に、傍に居たリーダー格と思しき黒髪の男が口を開いた。


「こういう奴は見た目だけじゃなくてよぉ、中身も綺麗なんだぜ」
「へえ、中身が?」


髪を掴んだ男同様、気持ちの悪い笑みを浮かべながら男が顔を覗き込んで来る。一体何を考えているのか、疑問に思うよりも先に或る可能性が浮上し、ニュクスは背筋に悪寒が走るのを感じた。中身、と言うのはこの場合精神的なものでは無い。多分、きっと。余り考えたく無いが。


「ちょっとそこに縛り付けろよ。面白れぇモン見せてやる」


黒髪の男に指示される儘、男達はニュクスの身を拷問台と思しき机の上に乗せ、四方に存在するベルトを使って四肢を留め、固定する。手は頭上の方で、足は少し開いた状態で固定され、殆ど身動きが取れない状態となった。
ふと、視線を上へ向ければ、天井に吊り下げられた滑車らしき物体が有る。少し錆びている様だったが、其処に付着している赤黒い液体に嫌な予感が過ぎる。当たって欲しくないが、ニュクスの勘は悪い状況の時ほど良く当たった。


「真白ですべすべの肌だなぁ」


髪を掴んで来た男の武骨な手がニュクスの腹部に添えられ、下から上に向かって撫でられる。愛撫のつもりか、いやらしい手付きだったが、気持ち良いと感じる筈も無く、湧き上がる嫌悪感に吐気がした。


「これからもーっと綺麗なのが見れるぜ」


そう言って黒髪の男は腰に下げていた剣を鞘から抜き、ニュクスの眼前に翳して見せる。部屋の明かりに照らされ、白銀の刃がぎらりと光った。随分と手入れの込んだ、切れ味の良さそうな剣だ。
そして男はその剣の切っ先を腹部へとあてがった。ひやりとした感覚に思わず身震いする。けれど、直ぐ後に待ち構える、男がしようとしている行動に緊張が走り、全身が強張った。


「イイ声で鳴いてくれよ?」


その言葉が終わるか否かの内に、剣はニュクス腹部に突き刺さり、皮膚と肉を一気に引き裂いた。




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