白銀の狂詩曲【短編】 | ナノ


 美味礼讃  




久し振りに銀月が手に入った。

解体用の台の上に拘束し、逃げられない様にしてから電動鋸を使い、両手を切断した。拘束はきっちりしていたが、それでも抵抗し、暴れた為、切断面は汚くなってしまった。それにしても、獲物の肉を裂き、骨を経つ感覚は何時やっても興奮する。銀月が激痛に耐えられず上げた悲鳴も心地良かった。途中、声を出すまいと必死になって唇を噛み締めて居たが、麻酔無しの切断は流石に堪えたらしい。絶叫、とまでは行かなかったものの、切な気に漏らした悲鳴は勃起ものだ。

両手を失い、得意の銃も出せなくなった銀月の姿は何とも無様で、滑稽だった。その事を指摘し、笑ってやれば、彼は心底悔しそうに歯軋りをして見せた。
そんな彼の傷口は、溢れ出る血の量を少しでも減らす為、縄できつく縛ってやった。焼いてしまった方が持ちが良くなるのだが、別室からバーナーをわざわざ持って来るのも面倒な為、簡易に済ませる。
普段ならば喉を裂いて血抜きをする所だが、今日は違う。銀月には生きていて貰わなければならないのだ。銀月の肉を使った料理を、彼に披露する。その為に、敢えて殺さず、生かした状態で腕を切り落とした。
銀月の顔色は悪い。切断された腕が痛くて仕方が無いのだろう。浅い呼吸を何度も繰り返している。直ぐに死ぬ事は無いだろうが、そうのんびりもしていられない。今後の為にも、作業は早急に進めなければ。

台の上に拘束していた銀月を、近くに置いてあった椅子へ移動させ、縛り付ける。その際、軽く抵抗されたが、腕が無く、異端の力も使えない銀月を押さえ込む事は容易だった。
逃げられない様に雁字搦めにし、縄が緩まない事を確認してから、調理に取り掛かった。
切り落とした両手の皮膚を剥いで肉を削ぎ、不要な骨を捨てる。その後、機械でミンチにし、事前に用意していた調味料達と混ぜ合わせる。粘りが出るまで混ぜた後は捏ねて形を整え、油を引いたフライパンでじっくりと焼き上げるのだ。

調理の最中、拘束している銀月を何度か見ると、彼を唇を噛み締め、無くなった腕の痛みを耐えていた。激痛を誤魔化そうとしているのか、時折無駄に長い溜息を吐き、小刻みに身を震わせながら息を吸っていた。
焼き上がったハンバーグは皿に盛り付け、銀月の傍に設置したテーブルへと持って行く。彼の顔を間近で見ながら、彼の肉を楽しむ。最高の贅沢だ。
ナイフとフォークを使ってハンバーグを切り分け、一口食べる。仄かな甘みを持つ銀月の肉は、矢張り絶品だ。生で食べても、焼いても、煮ても、炒めても。如何な調理法でも美味しい。

肉を堪能する自分の姿を、銀月は決して見ようとはしなかった。何度も肉の感想を彼に言ってやったが、気に入らなかったらしい。何なら一度食べてみれば良いと、フォークに一口分を刺し、彼の口元へ持って行った。すると、彼はそれを拒否しようと必死になって首を振った。
好き嫌いをしてはいけないよと。子供に言い聞かせる様に窘め、顎を掴んで無理矢理口を開けさせる。僅かに開いた唇の間に、ハンバーグの欠片を押し込むと、吐き出さない様口を押さえた。しっかり味わって食べなさい。何とかして吐き出そうとするのを阻止し、彼が飲み込むのを待つ。やがて彼は息苦しくなったのか、小さく喉を動かし、その欠片を嚥下した。
それを見てから手を離すと、彼は激しく噎せ込んだ。味わって食べろと言ったのに、殆ど噛まなかったのだろう。苦しそうに咳込み、青白かった顔を紅潮させている。可愛らしい、と思った。

この後の事は特に考えていない。足を切断しても良いし、内臓を抜いても良い。眼球を抉って食べるのも魅力的だ。途中で死んでしまったら仕方ない。葬儀屋に連絡して引き取りに来て貰おう。
そんな事を考えながら、既に弱りつつある銀月の顎を掬い取り、薄い唇に口付けた。




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