白銀の狂詩曲【短編】 | ナノ


 選ばれし美食家達  




夕方、得意先となっている殺し屋の所から、比較的若い少年の肉が届けられた。何でも、暗殺した標的の家族で、標的と共にその場に居り、証拠隠滅の為に手を掛けたのだとか。出来るだけ苦しめない様、時間を無駄にしない様。心臓を一突きにし、殺したと言う体は、確かにそれ以外の外傷が一切無かった。普段は人をいたぶり、殺す事に最高のエクスタシーを感じると言う彼だが、私情を仕事に持ち込まないのは、流石プロと言うべきか。

標的の方は如何したのかと訊ねれば、それは仕事の完遂を証明する為、依頼主の元へ持って行ったと返って来た。どのみち脂ぎった小太りの中年親父なので、持って来ても食べられないだろうがと笑われた。確かに見た目は気持ち悪いし若いモノに比べれば味は落ちるが、何処かしら美味しい所が無いとも限らない。そう言うと、殺し屋は悪食の鳥葬じゃあるまいしと更に笑った。
何時もの様に血抜きを含めた解体作業を行った。心臓以外の臓器は無傷だった為、一つ一つ丁寧に取り出した。朝方に闇医者が、鮮度の良い腎臓が有れば譲って欲しいと言っていたのを思い出し、二つ共持ち運び用の冷蔵ボックスに入れておく。移植を望む者が居るのだろうか。此方としては、そこそこ良い値段で売れるので有り難いが。

ソーセージが食べたい。
昼過ぎにやっていた料理番組を見て、そう思った。頭から爪先まで、解体作業を終え、肉の一部を電動の挽肉機に掛けてミンチにする。羊の腸は在庫を切らしていた為、伸びは悪いがこの少年のモノを使う事にした。

氷水に浸したボウルの中に先程ミンチにした肉と調味料、スパイスを入れ、混ぜ合わせる。基本的に手で捏ねるが、此処で肉の感覚を楽しむのが好きで、つい時間を忘れがちになってしまう。そうすると氷が溶け、手の熱が肉に移ってしまう為、程ほどにしなければならない。ねちょねちょとした独特の感覚は何度捏ねても飽きないものだが、文字通り熱を込めてしまうと後の肉質に支障が出る。

肉を捏ね終えると、小腸を綺麗に水洗いし、適当な長さに切って使える状態にする。羊のものよりも太いそれは、流石に腸詰めの機械には付けられないので、絞り袋に端を取り付け、輪ゴムで固定する。これだけだと抜けてしまう可能性が有る為、詰める時はしっかり指で押さえる。因みに、絞り袋には先に肉を入れ、少し絞り出して空気を抜いておく。
それらの行程を終えれば、いよいよ腸詰めだ。太さが均一になる様――にしたいのだが、元の形が歪なので『出来るだけ』均一になる様に絞り出す。太さもそこそこ有るので見た目のインパクトは大きい。保存する分も考え、何時もよりも多めに腸詰めにする事にした。

普段は捩って小分けをするが、今回は太くて捩り切る事が出来ない。その為、糸を使って縛り、切り分ける事にした。少々面倒だが、こればかりは仕方が無い。分けたものは、その儘じっくりボイルする。
保存する分は氷水で冷やし、食べる分は油を引いたフライパンでこんがり焼き色が付くまで焼いた。矢張り人間の小腸は羊のものよりも厚みが有る為、時間が掛かる。けれど焼いている最中の匂いは最高だった。早く食べたい気持ちを抑え、皿に盛り付け、食卓へ運ぶ。湿気たパンに薄めのスープ、簡易なサラダと、大きなソーセージ。今夜は質素にすませるつもりだったので、思わぬ主役に笑みが零れた。

明日は肝臓を使ったメニューを考えてみよう。何が良いだろうか。炒め物は定番だが、思い切って唐揚げにしてみるのも良いかもしれない。余る様ならペーストにしてパンに塗って食べるのもやってみたい。

暫く肉に困らない生活を送れる。その事に感謝しながら、出来立てのソーセージに齧り付いた。




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