白銀の狂詩曲【短編】 | ナノ


 優秀なる美食学  




銀月の肉は貴重だ。
生きている状態から解体するのは難儀だが、死んだ状態からだと味が落ちる。
活きの良い時の抵抗は激しく、自分一人で解体ともなれば命懸けだ。かと言って、薬物を投与すれば肉質に支障が出る。電気ショックを与えるのが今の所一番効率的だが、其処に至るまでが大変である。

先日、南エリアで有名な強姦グループが意識を失った状態の銀月を持って来た。聞けば薬物は使用しておらず、あらゆる罠を駆使して捕らえ、弄んだのだとか。見れば銀月は女の方で、下半身は男達のものであろう精液に塗れていた。生臭い臭いが気になったが、洗浄すれば幾らかマシになるだろう。大金を払い、銀月を引き取った。

意識が無い内に洗浄を済ませ、銀月を拘束した。解体の最中に意識が戻ると厄介な為、両手は後ろ手に拘束し、足を纏めてフックに掛け、天井から吊るした。床に垂れる白銀の髪を切り落とし、保管しておこうと何度も考えた。しかし不思議な事に、銀月は死後、肉体が蘇生を始めると本体から離れたモノは全て灰となり、消えてしまう。手足や耳と言った部位も例外無く、綺麗に目の前で無くなった。

吊るした後は他の生き物と同様に頸動脈を切り、放血させる。この時に溢れる血は人間とは思えない程に熱く、口に含めば仄かな甘みが広がった。
それから腹を裂き、内臓を掻き出すのだが、灰になる現象の所為でどの臓器を優先的に調理するか、早々に決めなければならない。心臓、膵臓、腎臓、肝臓、胃、小腸、大腸、子宮――他にも有るが、特に美味なのは心臓と子宮だ。心臓はどちらかと言えば男の時の方が美味である。だが子宮は女でなければ手に入らない。尤も、銀月と言う肉が手に入る時点で、これについて贅沢は言えない。

腹が空いている時はその場で子宮に齧り付く。何時か銀月が生きている状態で引き摺り出し、喰らった事が有るが、銀月の絶叫と共に味わう子宮は格別だったのを覚えている。それから心臓も引き摺り出し、舐めて見せたが流石に銀月は自身の心臓を拝む前に絶命してしまった。

内臓を掻き出した後は肉の解体だ。頭から足の先まで、全ての肉を様々な調理方法で味わった。手っ取り早いのは刺身、少し手間を掛けるなら煮込み系。ソテーも良いが、冷蔵庫に有るバターの質と相談だ。ハンバーグも悪くない。
灰になる前に全ての肉を堪能したいのだが、残念ながら自分の胃袋は其処まで大きくない。解体作業に熱中すればそれだけ肉を味わう時間が減ってしまう為、今日は解体は最低限にし、腕と乳房、子宮を調理する事にした。本当なら臀部も調理したい所だ。二時間ほど前に食事をしてしまったのが悔やまれる。まさか銀月が担ぎ込まれるなんて思わなかったのだから。

深夜の食卓。並んだのは旨辛焼きに肉団子、そして唐揚げだ。乳房は刺身にしようか悩み、結果肉団子にする事にした。
この時間帯にしては随分ずっしりとした料理になってしまった。否、肉料理の時点で軽い訳が無い。
胃もたれを気にしつつ、フォークとナイフを手に取り、小さく切り分け、一口ずつ口に運ぶ。調味料とハーブの香りが程好く染み込み、肉の旨味を引き出している。我ながら料理の腕が上達したと、解体業を始めた当初から思う。油ものが多い為、飲み物は胃に少しでも負担を軽減させようと牛乳を用意した。最初に放血させた血は瓶詰にしており、何時でも吸い上げられる状態になっている。必要が有ればソース代わりにもなるだろう。日持ちは殆どしないが。

銀月の肉は矢張り絶品だ。この肉を手に入れるまでは、肉を殆ど食べていない、若い女が一番美味だった。しかし、銀月の肉は銀月が何を食べていようと肉質に変化は無く、常に極上の味がする。死んだ後に蘇生する事にも関係しているのだろうか。過度のストレスや薬物の投与は流石に悪影響となるものの、謎の多い存在だ。

食事を済ませると、葬儀屋に連絡を入れる。基本的に生き物の解体において、肉以外の所は余程の部位で無ければ殆どの素材を何かしら再利用する。だが、銀月は蘇生を始めると何も使えない。灰になってしまうのは、誰のモノにもならないと言う、無言の抵抗なのだろうか。分からない。
葬儀屋は死んでいる人間ならば有償で引き取ってくれる。引き取りに来るのは大体土葬か鳥葬――あの双子のどちらかだ。鳥葬は何も言わないが、土葬は何時も小言を言って来る。機嫌が悪い時は何十分と説教をされた事も有り、正直苦手だ。

今日は鳥葬が部下と共に引き取りに来てくれた。有り難い、と思ったが、扉を開けると不機嫌そうな面持ちで立つ鳥葬の姿が有った。顔面に殴られた痕が有った為、恐らく来る前に土葬と喧嘩でもしたのだろう。彼を殴れる人物は、土葬以外に先ず有り得ない。何時も不気味な程にこにことしている鳥葬がぶすくれた表情で居るのは或る意味貴重だ。けれどそれを指摘すれば喰い殺される。黙って解体しかけの銀月を渡し、部下に引き摺らせ、帰って行く鳥葬を見送った。


次は何時銀月を食せるだろうか。銀月の肉が手に入るか否かは、完全に運任せだ。運が悪ければ当分は縁も無いだろう。
銀月が目の前に現れる『その時』が来るまでは、何時もの様に荒くれ者達が担ぎ込む人間を解体し、銀月の肉の妄想をしながら食べる事にしよう。




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