10

「もう少しマシな裏口は無かったのかよ」
「仕方ないですね」


夜。
任務遂行の最終確認を終えたニュクスとジェレマイアは、東エリアの郊外にある標的の屋敷を訪れた。企業のお偉いさんらしい、大きな邸宅。庭だけでもかなりの面積があり、建物の中へ入るまでに相当歩かなければならない。
無論、正面突破は考えておらず、裏口からの侵入を試みるつもりだったのだが。下見の段階よりも見張りの数が多くなっており、候補としていた裏口の一つは諦めざるを得なかった。その為、第二候補、第三候補を巡り、漸く入り込めそうな場所を見付けた。それでも、見張りである警備員の数はそこそこ居り、戦闘は避けられない状態だった。


「それじゃあニュクスくん、任せます」
「ちっ……仕方ねえ。囮はやれよ」
「ええー……」
「ええー、じゃねえよ。五人も相手にするんだ。それ位やってくれねえと割に合わねえ。さくっと片付けてやるから、さっさと行けよ」


裏口近くの茂みの中に隠れ、様子を伺う。裏口を守る警備員の数は五人。銃を用いれば直ぐに片付けられる人数だが、発砲音で他の者に気付かれると厄介な為、殴って黙らせるしかない。そうなると非力なジェレマイアは役に立たない。肉弾戦が苦手な事を認めているジェレマイアは最初からニュクスに任せるつもりらしく、鬱陶しい程爽やかな笑みを浮かべながら親指を立てた。
それを見たニュクスは露骨な舌打ちをし、彼等の相手をする事を渋々承諾する。しかし、その為の囮となる事をジェレマイアに要求した。純粋な戦闘よりも面倒そうな役に対し、ジェレマイアは笑顔から一転して嫌そうな顔をする。けれどニュクスは拒否権は無いとばかりにジェレマイアの背中を押し、自身は別の方向から攻め込むべく、身を低くして移動を開始した。

そして。


「すみませーん、ちょっと道に迷っちゃったんですけどー」


ごく自然に、『適当に散歩をしていたら迷っていた人』になりきって、ジェレマイアは警備員達の前に姿を見せる。突然現れた一般人と思しき姿に、彼等の視線がジェレマイアに集中すした。


「……道に迷っただと?」
「そうなんです。僕東エリアに来たばっかりで、散策のつもりで歩いてたんですけど。気が付いたら良く分からない所で……あ、地図とか持ってません? 場所の確認をしたいんですけど」
「はあ……」


すらすらと嘘を吐き、警備員達の意識を己へと向ける。にこにこと、人の良さそうな笑みを浮かべるジェレマイアに警備員達は何の警戒もせず、言われる儘誰か地図を持っていないかと、お互いに確認をし始める。
その隙を突いて、ニュクスは足音も無く彼等に近付き、両手に握った銃器を使って一番近場に居た警備員の後頭部に殴り掛かった。ごっ……と鈍い音が鳴り、最初の一人が地面に倒れる。


「……は?」
「悪いが、ちょっと寝てろよ」


にぃ、と。口元を歪め、笑う男。それが意識ある内に警備員達が見た最後の光景となった。
ニュクスは彼等が声を上げる間も無く、連続で深い一撃を入れ、次々に地面へと沈めて行く。鳩尾や蟀谷(こめかみ)、首筋と。的確に狙いを定め、銃身を叩き付ける。警備員と言っても、所詮は東エリアの一般人。ニュクスの攻撃に成す術も無く、数秒と経たぬ内に全員がその場に倒れ、動かなくなった。


「……殺してませんよね?」
「骨にヒビは入ってるかもな。まあ、大丈夫だろ」


地面に倒れ伏した警備員達を見て、ジェレマイアがニュクスに訊ねる。それに対し、ニュクスは手にしていた銃を霧散させながら、曖昧な答えを返した。
何せ気絶させるつもりで殴ったのだ。軽い衝撃で意識が飛ぶとは思っていなかった為、それなりに強い力を加えた。元より格闘技は専門外であり、加減の仕方も良く分からない。取り敢えずこれ位なら死にはしないだろうと。自分なりに考えて彼等に攻撃した。


「行くぞ」


取り敢えず、第一関門は突破した。裏口の扉はカードでロックを解除する仕組みらしい。ジェレマイアがそれを確認すると、ニュクスは気絶させた警備員の一人の懐を弄り、そこから鍵となるカードを見付け、直ぐに解錠させた。
此処までは問題無く事が進んでいる。後は、内部で出来る限り戦闘を避け、目的の部屋に行って機械を破壊する。建物内の構造はマスターが調べてデータ化し、端末に送ってくれた為、迷う事は無いだろう。
ニュクスとジェレマイアは扉を開けると互いの顔を黙って見、浅く頷いた後に駆け出した。




[ 86/167 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -