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それから二週間。ニュクスとジェレマイアは仕事の為の調査を念入りに行い、襲撃の段取りを綿密に組んだ。
標的の男が経営している会社は東エリアの住宅街から少し外れた所に有る。自宅も併設されているらしく、敷地は広大。警備も厳重で、正面突破は難しい。その気になれば出来ない事も無いが、治安が良い事で知られる東エリアである為、派手に暴れて騒ぎになるのは避けたい。主として動くのはニュクスで、偵察やサポートはジェレマイアが行い、戦闘は必要最低限に留める。情報のやり取りを行っているだろう端末は見付け次第破壊し、可能であれば標的である男は殺さずに捕獲する。
ああでもない、こうでもないと。二人で意見を出し合い、時にマスターに相談をして。ようやく納得の行く『舞台』が整った。


「そう言えば、あの子はまだキコさんの所に行ってるんですかね」


襲撃を行うのは夜。日付が変わる頃。その前に腹ごしらえをしようと月桂樹へ向かう途中、ジェレマイアが思い出した様に先日会った少女の次第を口にした。今回の仕事を請け負う前に現れた、仕事を求めていた少女は、今どうしているだろうか。纏まった額の金を欲し、キコの所で仕事を見付け、安堵していた彼女は。


「さぁな。寄って見るか?」
「そうですね、少し気になるので行ってみましょう」


どうせまだ時間は有る。寄り道をして、それから仕事に向かっても十分間に合う。ニュクスとジェレマイアは互いに頷き、キコの診療所へと向かった。






「最近あの子来ないんだよね」


夕方。キコの診療所に足を運んだ二人は、出迎えてくれたキコにそう告げられた。


「来てないんですか?」
「うん。働かなくても良くなったなら、それにこした事はないけど。何も言わずにぱったり来なくなっちゃったんだ」


茶を淹れてくれると言うので、応接間に座り、テーブルを挟んで言葉を交わす。
聞けば少女は最初の頃は毎日の様に通っていたが、ここ数日は全く姿を見せなくなったと言う。治験の代金はしっかり支払っており、薬の副作用等も出ていなかった為、具合が悪くなったと言う訳では無さそうだと。


「ただねえ、ちょーっと言動がおかしい事があったんだー」
「言動がおかしい?」
「うん。何ていうのかな。会話がかみ合わないって言うか、良く分からない事を言って来たりしてさ。治験の薬には幻覚作用とか無い筈だから、どったのかなーって」


ペインが人数分の茶を淹れ、盆に乗せて持って来る。二つはニュクスとジェレマイアの前に置き、残りの一つはキコが自ら手に取り、砂糖も入れずに一気に煽った。以前会った時には無駄に大量の砂糖を入れていたと言うのに、この差は一体何なのか。


「先生、私思うんですけどぉ、ちょっと臭くないですかぁ?」
「うーん、どうだろね。わかんないや」


三人の会話を聞いていたペインが眉を顰めて言い、キコはそれに対して何とも言えない曖昧な答えを返す。
何の連絡も無く、来なくなってしまった少女。あれだけ仕事を求め、熱心に通っていたと言うのに、一体何が有ったのか。ニュクスとジェレマイアは互いに顔を見合わせ、心当たりを探す。
最後に会った日に、彼女は父が病気であると言っていた。そして、その治療をする為の薬を求め、仕事を探していたと。もしかしたら、その父親の容態が急変してしまったのかも知れない。余り考えたく無い事だが、可能性としては大いにあり得る。もし父親が死んでしまったなら、仕事をする必要も無くなる。だが、それなら連絡の一つでも入れてくれれば良いのにと、その場に居る誰もが思った。


「何でしょうね……取り敢えず今回の仕事が終わったら、その子探して見ましょうか」
「そだね。なーんか引っ掛かるもんね」


そうしてニュクスとジェレマイアは仕事の後に再びキコの元に来る約束を取り付け、診療所を後にした。




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