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翌日。
開店直後の月桂樹で待ち合わせた二人は、早速マスターを交え、仕事の話に入った。


「昨日は途中までしか話せなかったからな、もう一度説明するぞ。東エリアに住む男からの依頼だ。何でも、ある企業のお偉いさんが帝国の上層部と通じ、王国の情報を仕入れて流しているらしい」


情報の書かれた書類をニュクス達の前に広げ、マスターが説明をする。昨夜の時点では情報が少なかったが、マスターは一晩の間に更に情報を集め、分かり易く纏めたと言う。何枚も有る書類を眺め、ニュクスはマスターの情報収集能力に感心した。


「『中立は絶対であり、この地で外の国の情勢を左右する様な事があってはならない。迅速な対応を望む』と。これが依頼者からの要請だ」
「分かりやすい内容ですね」


中立都市は、名の通り中立の立場にある。外の国同士の戦争にも一切加担せず、その行く末を見守っている。
そんな中立都市の内部で、外の国の情勢に関わる動きが有ると言う。都市内でその様な行為をするのは禁じられており、発覚すれば良くて追放、悪くて処刑される。これは法的に定められており、守らないものには厳しい処罰が下される。
基本的にそう言った行為を取り締まるのは法の番人と呼ばれる者達だが、彼等の手に余る様な厄介な事案がマスターの元に流れて来る事も少なくない。今回の件も、訳有りのものと思って良いだろう。


「それで、どうすれば良い?」
「奴等の活動を止めろ。この都市から発信される情報を断て。その為ならば『多少の犠牲』も厭わない」
「……へえ」

つまり、必要ならば殺して良い。そう言う事か。
単純かつ明快。そしてとてもやりやすい条件である。誰も殺さずに事を成せと言われるのが一番面倒だ。ニュクスとジェレマイア、それぞれの異端と魔法の力は殺傷能力が高い。何も考えずに攻撃をすれば簡単に人を殺せてしまう。戦闘になった際、殺さない事を意識し、気を遣いながら戦うのは非常に疲れる。勿論、最低限の犠牲で済ませるつもりで居るが、『誤って殺してしまった』事で咎められなくなるのは有り難い。


「今回の場合、頭を潰すのが一番早そうだな」
「状況によりますけど、下の人達は何も知らない可能性もありますしね」


ニュクスとジェレマイアが標的の詳細を確認し、相談を進める間、マスターは彼等が注文した料理の準備をする。彼等が夕食を取りながら仕事の話をするのは何時もの事。時折投げ掛けられる質問に答えつつ、マスターは彼等が注文したハンバーグとパスタを出してやった。


「けど何だって、こんな会社がスパイ活動やってんだ」
「元々はそこそこ出来たIT企業だった様だが、最近は経営難に陥って会社が傾いてるらしい。資金繰りに困って手を出した、と考えるのが妥当だろうな」
「うーん、バレないと思ってたんですかねえ」


会社を存続させる為に、自分達が得意とする情報技術の分野を悪用するとは。良く有る話だが、今回に関して言えば随分とリスクの高い事をしていると思う。それだけ返って来るものが大きいのだろうか。


「情報のやり取りは会社の端末でやっている様だ。母体となっている機械を物理的に破壊するのが一番手っ取り早いと思うが、どうする?」
「任せろよ。ぶっ壊すのは得意分野だぜ?」


にぃ、と。片手を持ち上げ、銃を握る仕草をしながらニュクスが笑う。銀月、銃使いと。普段は比較的綺麗な通り名で呼ばれているが、一度戦闘に入れば自重を知らないレベルで暴れ回り、周囲のものを破壊する。彼が去った後は焦土になっているだとか、ぺんぺん草も生えない等と。一部の者達は囁く。
そんな相棒の様子を見て、パスタをフォークで纏めていたジェレマイアは苦笑いを浮かべた。自分はそこまで派手に暴れているつもりは無いが、どうもニュクスの所為で自分も誤解されてしまっている様な気がする。どちらかと言えば平和主義で、争い事は好まない性質なのだが。南エリアの者達には、ニュクス同様の危険人物として浸透してしまっている現実がある。悲しいと言うか、残念と言うか。けれど今更そのイメージを払拭できるとも思えず、諦める他無かった。


「その書類はお前達にくれてやる。これからどうするかは、お前達で決めな」
「そうさせて貰うぜ。お前もそれで良いだろ、三流」
「良い加減三流って言うの止めてくれませんかねえ?」


そうしてジェレマイアの抗議を右から左に聞き流しながら。ニュクスは話を纏め、夕食であるハンバーグに齧り付いた。




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