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「は?」
「え?」
「えっ?」


亜麻色のお下げ髪に、大きな丸い眼鏡。太い八の字眉。困り顔で出て来たこの少女は、何時かの蜘蛛女。
出て来た少女もニュクスとジェレマイアの事を覚えていた様で、互いに視線を交わすと、酷く間の抜けた声を上げた。その後、何とも言えない気まずい沈黙が流れる。ジェレマイアの横に立つ少女だけが、状況を理解出来ないと言った様子で不思議そうに首を傾げた。
そして。


「何でテメエが此処に居んだよ!?」


沈黙を破ったのはニュクスの怒声だった。以前彼女から受けた仕打ちを思い出したのだろう。その時の報復をしようと言うのか、手の中に拳銃を呼び出し、握り込んで構えを取る。ニュクスの声を聞き、ジェレマイアも危機感を持ったのか、傍に居る少女を庇う様に彼女の前に立った。
一触即発、緊迫した状況になるかと思ったが、ニュクス達の行動を見た蜘蛛女が口にしたのは意外な言葉だった。


「きゃーん!ぶたないで下さい!撃たないで下さい!」


それは以前の様な挑発的なものでは無く、猫かぶりかと聞きたくなる様な情けない声だった。更に、敵意が無い事を証明しようと両手を頭上に上げ、万歳の姿勢を取る。戦うつもりは無いから落ち着いてくれとでも言いたいのか。けれど一度殺されかけたニュクスにとって、蜘蛛女の言動は信じ難く、少しでも妙な動きをすれば即撃つと言わんばかりに銃口を彼女へ向ける。


「なになにー? どったのペインちゃん?」


そうこうしている内に外の騒ぎを聞き付けたのか、扉の奥からキコが出て来た。ぱたぱたと独特な靴音を立て、のんびりとした調子で応対をしてくれた蜘蛛女に声を掛ける。すると、蜘蛛女は直ぐにキコの後ろに回って隠れ、様子を伺う様に顔だけ半分覗かせた。


「……ペインちゃん?」
「あ、ニュクスくんとエリーちゃんじゃん。早かったね」


ペイン、と言うのはこの蜘蛛女の事だろうか。今の状況では、此方の方が完全に悪役状態だと思いつつ、出て来たキコへ挨拶の前に怪訝の眼差しを向ける。しかしキコは気にした様子も無く、常と変わらぬ調子で軽く手を振り、挨拶の言葉を口にした。早かった、と言う事はマスターの話がしっかり通っていると言う事か。


「立ち話も難だからさー、とりあえず入って入って」


その前に、蜘蛛女が此処に居る理由を聞きたいのだが。銃を下ろし、霧散させながらニュクスは黙って蜘蛛女とキコを交互に見遣る。関連性がまるで見出せない。以前の騒動から今日に至るまでの経緯を知りたい。そうでなければ、ゆっくりと話も出来ない。
ニュクスの無言の訴えが通じたのか、キコは背後に隠れる蜘蛛女に『悪いけどお茶いれてきてくれるかなー?』と言い、彼女を奥へと下がらせる。その姿が完全に見えなくなった所で、話はちゃんとすると言わんばかりに手招きをし、中へ入る様促す。


「びっくりさせちゃったみたいでごめんねー」
「……びっくりってレベルじゃねえよ」
「まーまー、その辺の事も話すからさ。エリーちゃんとそっちの子もほら、どーぞ」


『だからエリーちゃんじゃありません』と。ジェレマイアは相変わらずキコの呼び方に不満を持ち、顔を顰める。未だ緊張は解けないが、先程に比べれば幾らか空気が和らいだ。
ジェレマイアの後ろに居る少女も安堵した様に溜息を漏らし、顔半分が爛れているキコの顔をじっと見詰める。第一印象で良く悍ましい、怖い、不気味と思われがちな顔だが、少女は特に怯えた様子も無く、ただ興味深そうに見ていた。血が大丈夫、と言った通り、幾らか肝は据わっているのだろう。
そうしてキコに手招きされる儘、ニュクス達は建物の中に入った。





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