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「えっと……その」
「どうしてこんな所に来ちゃったんですか? 何か訳が有る様に見えますけど」


ぶっきらぼうな相方の言葉をフォローする様に、ジェレマイアは努めて優しい口調で少女に訊ねる。その際、『女の子にはもっと優しく声を掛けるものですよ』と言わんばかりにニュクスの脇腹を肘で突付いた。ぐりぐりと押し付けられる肘にニュクスは鬱陶しそうに眉を寄せたが、特に反論する事は無く、少女の答えを待った。
少女は暫く答え辛そうにその場でおどおどしていた。ジェレマイアが言った通り、何やら訳有りの様だ。はっきりと言えないのは、少女が緊張しているからか、それとも本当に話すのが難しい事なのか。
少女はどう説明するべきか悩んでいた様だったが、やがて意を決した様に顔を上げ、言った。


「お金が、必要なんです。たくさん、いっぱい」
「……金か。どれ位必要なんだ?」
「とにかくいっぱい。出来る限りたくさん欲しいんです」


とても分かり易い目的だった。けれど、目的の額は曖昧で、ニュクスは訝しむ様に少女を見遣る。その視線が睨んでいる様に感じられたのか、少女は再び怯えた様に身を竦ませ、カウンターに着いた手をぎゅっと握った。
意図せず威圧的になってしまっているニュクスに、ジェレマイアは困った様に苦笑いをし、マスターは敢えて何も言わず更に問いを重ねた。


「見た所この辺(エリア)の人間じゃ無い様だが、家は何処だ?」
「ひ、東エリアです」
「普通に東エリアで仕事探せば良いんじゃねえか?」
「それじゃ駄目なんです」


わざわざこんな物騒な所で仕事を探す必要も無いだろう。東エリアに居を構えていると言うのなら尚更だ。暴力や殺人が日常茶飯事となっている南エリアより、治安の良い東エリアで出来る仕事を探した方が良いに決まっている。だが、少女ははっきりとそれを拒否し、この南エリアでないといけない理由を口にした。


「普通のお仕事じゃ、追い付かないんです。とにかくお金が必要で、その為なら何でもします。だから、お願いです」


仕事を紹介してください。たどたどしく言って、少女は頭を下げた。借金の返済でもするつもりなのだろうか。普通の稼ぎでは追い付かないと言うのだから、思い当たるのはその辺りの事情だが。


「……念の為聞くが。嬢ちゃんは戦えるのか?」
「い、いいえ。全然……」
「なら、何かの能力に長けているとかは有るか? 機械に強いとか、薬に詳しいとか」
「それも……」


どうやら魔術の心得も無く、異端者でも無いらしい。言ってしまえばごく普通の一般人。戦闘能力は皆無で、特に秀でた能力も無い。取柄と言えるものも無く、そんな状態で何故この月桂樹を訪れたのか。せめて戦う力は無くても、何かしらの技術が有れば紹介出来る仕事も有っただろうが。
マスターがどうしたものかと顎に手を添え、擦っていると、ニュクスが口を挟んで来た。


「全然使えねーじゃねえか」
「ニュクスくん黙って」


悪気が有って言っているのでは無いのだろうが、空気が読めていない。身も蓋も無く放たれる言葉にジェレマイアの表情は引きつり、これ以上余計な事は言ってくれるなとばかりに軽く拳を握り、彼の頭を叩く。すると、ニュクスは何が悪いのか理解出来ないと言った様にジェレマイアを見た。身を危険に晒す覚悟が有ったとしても、何も出来ないのであれば意味が無い。誰かと組むにしても、足手纏いになるのが目に見えている。南エリアで仕事を請け負うのは無謀としか言いようが無かった。


「嬢ちゃんは、血は平気か?」


ニュクスに指摘され、気落ちしてしまったのか少女は俯き、黙り込む。それを少し気の毒に思ったのか、マスターは思い付いた様に少女へ訊ねた。




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