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ジェレマイアの問い掛けが意外だと言わんばかりに、彼女は目を見開き、聞き返して来る。それに対し、ジェレマイアは何とも言えない表情で沈黙し、小さく頷く事で肯定して見せる。制御の仕方なんて知らない。それが出来ていれば、こんな辛い思いをしながら毎日を過ごしていない。魔術やら魔法に関する知識は、自分も含め、村に居る者は何も知らない。どうしたって、分かる筈が無い。
そんなジェレマイアの反応を見て、彼女は暫し悩む様に片手を顎に添え、何処か遠くを見つめながら唸った。どうするかなぁ、時間は有るっちゃ有るけどなぁ、と。独り言をぶつぶつと呟く。
ジェレマイアが黙って彼女の答えを待っていると、やがて彼女は『よし』と何か決めた様に胸元で拳を握り、反対の手でそれを叩いた。


「しょーがないなあ。宿も提供してもらえる事だし、わたしが君に教えてあげよう」


同じ魔法使いとして、何も知らない少年を助けてやる。それは後に分かる彼女の気紛れな感情か、それとも慈悲の心か。幼いジェレマイアには分からない。
けれどその言葉は、厳しい現実と言う名の闇に差し込む光だった。彼女は確かに今、教えてくれると言った。つまり、この抑えきれない風を何とかする事が出来る。また何時かの日々の様に、村の皆と心穏やかに過ごす事が出来る。どれ程嬉しく、有り難く、感謝すべき事か。


「ただしキビシーぞお?おねーさんは手加減とかしないでビシビシ行くから、そのつもりでね?」


構いはしない。例えどんなに厳しい試練が待っていようと、この辛さから解放されると言うのであれば、何だってする。また両親に触れられるならば、友達と遊べる様になるならば。どんな困難であろうと、乗り越える。


「あ、ありがとう……ございます……本当に、ありがとう」


ジェレマイアが深く頭を下げると、彼女は其処まで畏まる必要は無いと苦笑し、その頭を無造作にわしゃわしゃと撫でた。矢張り、誰かに触れて貰えると言うのは嬉しい事だ。髪が多少乱れはしたが、ジェレマイアは嬉しさから久方振りに安堵し、笑った。

そうしてその日から、ジェレマイアと彼女の『特訓』が始まった。




「風を制御するって言うのはね、風の声に耳を傾ける事から始まるんだ」


彼女は毎日、耳にタコが出来る程そう言った。
魔法は、精霊の力を操るもの。心を通わせなければ、力を制御する事は出来ない。自分を愛した精霊がどんな存在なのか、どうして自分を選んだのか。考えながら、その声に耳を傾ける。
心が通じ合えば、力は自然と制御出来る様になる。ただ、其処までに至る過程は個人差が有り、相性が悪いと中々上手く行かないと。彼女は説明してくれた。


「ほら、力むだけじゃダメだって」
「ううに……」
「力を抜いて、深呼吸して。体の奥にある風を感じて……ね?」


魔術の心得が有れば、多少は分かり易いと言うが、ジェレマイアにはさっぱり分からない。取り敢えず見えない精霊を探そうと目を閉じて体に力を入れて見るが、上手く行く筈も無く。
隣で見ていた彼女が苦笑しながらそうでは無い、こうするんだとアドバイスをくれる。特訓の最中でもお構いなしに吹く自分の風が少し憎たらしいが、憎んだ所で何かが変わる訳でも無い。
今はただ、彼女の言う通りにして、風を制御する術を身に付けなければ。ジェレマイアは無我夢中で毎日彼女と向き合い、特訓を重ねた。





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