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「うっ……撃て、撃てェーっ!」


リーダー格の男も我に返り、部下達にニュクスを射殺する様指示を出す。その声を聞き、兵士達は持っていた銃を一斉に向けるが、ニュクスの動きはそれよりも速かった。
最初に撃ち殺した兵士の横を抜け、両手の銃口をそれぞれ別の兵士達へ向け、頭部を狙いトリガーを引く。自らも相手の攻撃の射程範囲内であると言うのに躊躇無くその場を駆け、次々と敵対する者を地へ落として行った。
残る兵士達は近くの物陰に隠れ、彼の隙を見て反撃を試みるも、銃撃音が鳴り止む事は無かった。途中で弾切れを起こしてもおかしくない筈なのに、ニュクスは発砲を止めない。それ処か、途中で持っていた銃を投げ捨て、代わりに再び両手に別の形の銃――恐らくは機関銃だろう――を一瞬で手中に生み出し、弾幕を張った。捨てられた銃へ地面に落ちる直前で蒸発する様に霧散し、発砲の際に出た筈の薬莢もまた同じ様に消えて行った。


「魔法使いさん、あれは……」
「ニュクスくんの異端の力ですよ。今は説明してる時間が有りませんから、早くこっちへ」


目の前で繰り広げられる不可解な現象に、依頼人は戸惑いながらジェレマイアに声を掛ける。手品と言うには出来過ぎているし、幻覚を見せられている様にも感じられない。事情を知っているジェレマイアは動じる事無く質問に答え、此方に被害が及ばない内にと依頼人の手を引き、その場を離れた。
兵士達の意識がが全てニュクスに行っている以上、ジェレマイアからアクションを起こす必要は無い。依頼人が傍に居る間は、彼を守る事を最優先にすべきだと。そう判断しての行動だった。
しかし、ニュクスと交戦している者の一人がジェレマイア達の動きに気付き、退路を塞ぐ様に立ちはだかる。逃がすつもりはないと言う事か。同志達の悲鳴を背後で聞きながら、それでも冷静に彼はジェレマイア達に持っている銃の銃口を向けて来る。


「邪魔ですよ……!」


此方は丸腰だから簡単に捕らえられると思ったのか。それは甘い考えだと、ジェレマイアは小さく笑い、右手を持ち上げる。緩慢な動作でその手を前へ向け、何かを薙ぐ様に左へ振れば、突然その場に強風が起こり、立ちはだかった兵士の身体を後方へ吹き飛ばした。がっしりとした体躯の兵士だったが、その身が簡単に飛んで行ってしまった。「風」を操る魔法使いの力を見た依頼人は、ニュクスの時とはうって変わって安堵し、ジェレマイアに頭を下げる。魔法使いである己と、異端者であるニュクスの扱いの差にジェレマイアは僅かに苦笑したが、特に何も言わずに更に距離を取ろうと再び駆け出した。


「さっきの威勢はどうしたんだよ、ああ?」


反撃として飛んで来る銃撃の軌道を読み、地を蹴って避けながら発砲を続けるニュクスが犬歯を剥き出し、笑う。銃弾を避ける度に腰まで伸びる銀の髪と、纏っているロングコートの裾が翻った。遠方から見ればまるで踊っている様にも取れる動きだったが、彼が浮かべている笑みは獰猛な獣のそれに似ていた。それは先日派手に焼き殺された事による鬱憤を晴らしている様にも感じられたが、安全な所まで離れたジェレマイアにはそれを確認する術が無い。


「さぁて、残るはテメエだけだ」


十人以上は居た筈の兵士達も、気付けばリーダー格の男を残して皆地面に倒れていた。男は足元に倒れている嘗ての同志と目の前に立つニュクスを交互に見、信じられないとばかりに口をぱくぱくと動かしている。
恐怖の余り声も出ないか。ニュクスは銃口を彼に向け、先程の激しい動きとは異なる緩慢な動作で距離を詰めて行く。獰猛な笑みはその儘、目の前の男を如何してやろうかと考えている様だった。殺す事は簡単だ。勿論生かす事も出来るが、その場合は此方に利益が生まれる条件を提示し、呑んでもらう必要が有る。何れにしても、ニュクスは己が圧倒的に優位な立場に在る事が愉しくて仕方が無かった。
だが、その余裕の表情も、背後から迫る殺気によって一瞬で掻き消された。


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