7

カノンに案内され、通された部屋は広い洋室だった。
中央には円形のテーブルと、室内にいる人数と同じ数の椅子が並べられ、更に周囲には赤と白の二色で統一された薔薇が飾られている。奥には大きな窓があり、丁度西日が差し込み、アフタヌーンティーを楽しむには程良い時間である事を示唆していた。


「相変わらずシャレオツな部屋用意すんなー」


綺麗に整った室内を見て、ホムラは感心した様に呟いた。
『花葬』の名の通り、カノンは花を愛する。その中でも薔薇がお気に入りで、自らの胸元はヘッドドレスには赤いそれを咲かせているし、他者を持て成す際には必ず室内に薔薇を飾る。


「座って、座って」


洗練された空間に一足先に入ったカノンが、入り口に立つ五人へ椅子に座る様手招きをする。
彼女に促される儘五人が其々の席へと座ると、カノンも上品な動作で椅子に腰掛け、両手を叩いて『合図』を出した。ぱん、ぱん、と。小気味の良い音が響き、数秒すると、先程六人が入って来た扉が叩かれ、更に若い女性の声がした。


「失礼します。ただ今お持ちしました」


控えめな声と共に扉が開かれ、アフタヌーンティーの為の一式が乗ったワゴンを押しながら黒衣のメイドが入って来る。一同の座るテーブルの傍までやって来ると恭しく頭を下げ、慣れた手付きでテーブルの上にケーキスタンドや、ティーカップ、スプーン、フォークを並べて行く。
ワゴンに乗っていたものを全て並べ終えると、メイドはポットを持ち、其々のカップへ丁寧に紅茶を注いで行った。アールグレイだろうか。カップから漂う柑橘系の香が鼻孔を擽る。
紅茶を全てのカップに注ぎ終えると、メイドは再び一礼をし、ワゴンを引いて部屋の隅へと下がって行った。


「アフタヌーンティーなんて、私は初めてだよ」
「どうせ紅茶しか飲まないんだろう?」
「こう言うのは雰囲気で味わうのさ」


カップの中で波打つ深いオレンジ色を眺め、レライエが呟くと、その隣に座るシトリーが正面を向いた儘言う。味覚の狂っているレライエでは、提供される食事に満足出来ないだろうと。日頃から死体を貪る彼を思っての発言だった。だがレライエは、目の前に鎮座するケーキスタンドを差し、にたりと笑いながら言葉を返す。本気で言っているのだろうかと、シトリーは怪訝の色を顔に滲ませるが、それ以上は何も返さず、目の前のカップを手に取った。
ケーキスタンドには、上からケーキ、スコーン、サンドイッチが綺麗に乗せられ、見る者の食欲を誘う。食べる時には順序が有った様な気がするが、既にホムラとヒヅキはケーキやスコーンを取っており、自由に食べている。基本が有ると言っても、ティータイムは楽しんでこそ成り立つものだ。特に拘る事は無いのかも知れないと。シトリーは隣で何を取ろうか悩むレライエを見つつ、サンドイッチを手に取り、齧り付いた。


「そう言えば、二人は何処で仕事をされたのですか?」


各々が食事や紅茶を楽しみ、何でも無い雑談に花を咲かせていると、ミギワがふと、思い出した様にホムラとヒヅキに訊ねた。先程の喧嘩の原因となった仕事。その内容が気になり、緩く首を傾げながら問う。優雅な時間にその様な話を蒸し返すのは無粋かとも思ったが、好奇心の方が勝った。


「ああ、王国と帝国の国境付近さ。如何にも、帝国側の動きが不穏でね。偵察の任務だったんだけど」
「途中で見付かっちまって、帝国軍とドンパチするハメになっちまったんだ」
「ははあ、その時に色々あって、喧嘩になったと」


中立都市は、その名の通り何にも加担しない『中立』の国だ。だがそれ故に、外の国の情勢に敏感にならなければいけない。如何小さな変化であろうと、将来的に都市の脅威となる可能性が有る。
葬儀屋には、都市を管理する魔女から諜報や偵察の依頼が良く来ると言う。今回の仕事もその一つだったらしいが、先程の口論の様子からして、実際にまともな情報収集が出来ていたかは怪しい所だ。
ホムラはミギワの言葉に渋い表情を作り、ジャムをたっぷり付けたスコーンを頬張りながら更に言葉を続けた。


「一応、収獲は有ったんだぜ?」
「おや、どんな収獲が」
「帝国の奴等、どうも『ラヴィーネ』を出してるっぽいんだよ」
「……らう゛ぃーね?」


聞き慣れない単語を耳にし、紅茶を啜っていたカノンが不思議そうに瞳を瞬かせ、首を傾げる。




[ 65/167 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -