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葬儀屋の幹部は冠する葬法と同じ属性を持っている。

『火葬』のホムラは炎の魔法使いで、二年程前にヒヅキ、ミギワと共に就任した新参者だ。文字通り遺体を焼く葬法を用い、望む者が居れば遺骨を残し、そうでない者はその身を全て灰にする。
中立都市では最もポピュラーな葬法であり、仕事の依頼も他の幹部達より多く来る。人気者、と言えば聞こえは良いが、遺体を燃やす際の嬉々とした表情は異様であり、それを知っている者は敢えて彼を避ける傾向が有る。本人が言うには、『死体の焼ける匂いと、灰になって行く様子を見るのが楽しい』との事で、他の幹部に比べ激務となっている仕事も毎日笑顔でこなしている。
自称『炎の精に選ばれし罪人(つみびと)』で、他者には理解し難い妄想をする癖が有る。突然一人で語り出し、何かに憂い、苦しむ様子は社内の名物ならぬ迷物になっているが、本人は気にせず、毎日元気に過ごしている。

『氷葬』のヒヅキは氷の魔法使いで、ホムラと同じく葬儀屋の新参者だ。遺体を自身の魔法で凍らせ、それを粉砕し、自然へ還す。フリーズドライ、と言えば分かり易いだろうか。急速に凍結し、遺体の水分を昇華させ、乾燥させる。水分を失った遺体は脆くなり、軽い衝撃を加えるだけで粉々になる。火葬に比べ、知名度の低い葬法であるが、ホムラの火葬を敬遠する者や、他人とは違う葬法を望む者からの需要が有り、依頼はそれなりに来る。
見た目通りのクールな性格で、理屈っぽい喋り方をする。同期のホムラとの相性は悪く、事有るごとに衝突している。文化系と体育会系の典型的な関係と言って良いだろう。真面目だが神経質な面もあり、社員達からは近付き難い存在として認識されている。

『水葬』のミギワは水の魔法使いで、ホムラ、ヒヅキと同期の新参者だ。死者を水の中へと誘い、弔う葬法を行っている。本来ならば海や川へ遺体を流す処だが、中立都市には海が無い。川は数本流れているが、どれも決して大きくは無く、遺体を流すには不向きである。その為、ミギワは自身が生み出した水の中へ遺体を閉じ込め、その中で遺体を風化させ、朽ち果てた状態にしてから川へと流す。宗教上、火葬を行えない者等が主に依頼をしに来るが、数は其処まで多くない。
穏やかな平和主義者であり、他の幹部の喧嘩の仲裁役になる事が多い。特にホムラとヒヅキの諍いには、これまでに何度も仲裁に入り、殴り合いや殺し合いに発展しそうになるのを止めた。シトリーとレライエの兄弟喧嘩を止めたのも一度や二度では無い。葬儀屋の幹部の平穏は、彼によって保たれていると言っても過言では無い。ただ、怒らせると怖いらしく、激昂させた事が有ると言うホムラは彼に頭が上がらないと言う。

『土葬』のシトリーは異端者で、数年前にレライエと共に幹部に就任した。文字通り遺体を地に埋める葬法を行っており、南エリアの外れにある教会で遺体を埋葬している。火葬程の需要は無いが、それでも彼に依頼する者は少なからずおり、仕事用のシャベルを手放す日は無い。
魔法使いである先の三人と異なり、土の属性を持っている訳では無い。持っているのは異端の力であり、制御が難しい能力であると言う。仕事の最中に用いる事は殆ど無く、其々の属性に特化した彼等程の華やかさは見られない。シャベル一本と、持ち前の怪力のみで、黙々と仕事を行う。地味ではあるが、その怪力が凄まじく、敵となる者を倒す時の光景は、言葉で言い表せない程生々しく、グロテスクである。
レライエとは双子の兄弟であり、共に仕事をする機会も多い。但し兄弟仲が良い訳では無く、ホムラとヒヅキの様に衝突する事もしばしばある。それでも有事の際は息の合ったコンビネーションを見せる為、周囲からの信頼は厚い。

『鳥葬』のレライエは異端者で、前途の通りシトリーと共に数年前に幹部に就任した。鳥葬、の名の通り、遺体を鳥に喰わせる葬法を行う。影より生み出された鴉達により、遺体の肉を喰らい、分解して行く。時には骨まで突付き、喰らう事もある。鴉達が喰らった肉が何処へ行くのかは不明だが、これにより遺体は綺麗に姿を消すと言う。基本的に遺体の処理は鴉達が行うが、『悪食』の異名を持つレライエが直接遺体を喰らう事も有り、需要と人気は葬儀屋の中でも最下位だ。
それでも彼に仕事が回って来るのは、他では片付けられない訳有りの遺体であったり、悪意を持った者の依頼であったりと、中立都市らしい『様々な事情』が有るからだ。嫌われ者ではあるが、必要とされない訳ではない。レライエ自身も、与えられる仕事や囁かれる噂は気に入っており、鴉と共に嬉々として喰らいに行く。
兄弟であるシトリーと共に住んでおり、彼等の住む教会には本物か影か分からぬ鴉が良く鳴いている。下手に近付けば喰われる、等と噂されており、用が有る者か物好き以外、寄り付く者は居ない。

『花葬』のカノンは異端者で、三年程前に就任した。彼女は植物――特に花を自在に咲かせ、操る異端者であり、葬法もこの能力を用い、行われる。遺体に『種』を植え付け、その養分を糧とし、成長させる。芽が出て成長した種はやがて遺体が嘗て宿していた命を象徴する色を持った花を咲かせ、養分を吸われた遺体は枯れ果て、砂と化す。花の色や形は遺体によって異なり、一つとして同じ花は無いと言う。独特の葬法だが、例え死んでも自分が生きていたと言う『証』を残したいと。何も残らない葬法より、死後に花となるこの葬法を望む者は多く、近頃は火葬に次いで人気となっている。
尚、花となった遺体はカノンが持つ庭園に植えられ、枯れるまで世話される。枯れる時期は花によるが、最後まで面倒を見てくれるのも嬉しいと評判だ。
葬儀屋の幹部の中の紅一点。その見た目と大人しい性格の所為か、周囲からは姫扱いされ、大事にされている。けれどその事を鼻に掛けるでも無く、皆と仲良くしたいと純粋に考えている。

個性的な面子の揃う葬儀屋だが、特に幹部である彼等のキャラは非常に濃い、と。中立都市では有名になっている。




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