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ミギワの言葉にカノンは黙って頷き、バツのポーズを解いて双子に向け、両手を掲げる。すると、姫袖の中から薔薇の蔦が現れ、手首に添って掌まで伸び、其処で双子をイメージした金と銀の花を咲かせて見せた。何も無い所から花を咲かせる異端の力。彼女が関する花葬の由来だ。


「仲直り、しないと」
「……仲直り?こいつとかい?」
「まさかこの場で嫌だと言うんですか?」
「……それは」


嫌だ、と言おうとして、ミギワの有無を言わさぬ笑顔に言葉を飲み込む。此処で空気を読まず、断れば如何なるか。想像するは容易い。あどけない少女の心を傷付け、更に水葬の反発を買い、傍に居る火葬、氷葬と共に長い説教を受ける。怒りに任せるのでは無く、笑いながら淡々と各々の心を抉って来るミギワの説教は、一言で言うならばえげつない。過去に何度も経験しているホムラとヒヅキはその説教を想像して戦慄し、双子は和解と説教を天秤に掛け、暫く悩んでから――渋々――和解を選ぶ事にした。
『仲直り』の証拠として、シトリーは銀の薔薇を、レライエは金の薔薇をそれぞれカノンの手より受け取る。すると、カノンは無表情ながら丸い瞳に感激の色を示し、シトリーとレライエの服の裾を持って喜びをアピールした。


「はい、良く出来ました」


感情表現が苦手な彼女の、精一杯の行動に、張り詰めていた空気が和らぎ、ミギワは軽い拍手を送る。最初に喧嘩をしていたホムラとヒヅキも、既にその時の怒りは何処かへ飛んでしまったらしく、如何とも言えぬ表情の儘黙り込んでしまった。互いの顔を見合い、ホムラは気まずそうに後頭部を乱雑に掻き、ヒヅキは溜息混じりにずれ掛かった眼鏡を直す。


「頭に、飾って」
「……この薔薇を?」
「きっと、可愛いの。頭に、ちょこん」


シトリーとレライエが受け取った薔薇をどう扱うべきか悩んでいると、カノンは其々の頭に髪飾りとして乗せて欲しいとせがんだ。カノン自身が付けているヘッドドレスの薔薇と同じ様に、可愛く飾って欲しいと言う事か。だが、男の身で、頭に花を飾るのは正直如何なものか。シトリーは手中の薔薇を見詰めた儘沈黙し、レライエはと言うと元の身形が身形な為か、躊躇う事無く薔薇を頭に乗せて見せた。


「似合うかい?」
「うん」
「嗚呼、それなら良かった。ほら、お前も早く乗せたら如何だい?」


レライエに促され、シトリーも仕方なく持っている薔薇を頭へ乗せる。髪留めとなる金具は無かったが、乗せた薔薇から小さな蔦が伸び、髪に絡み付く事で固定され、落下するのを防いだ。これも、カノンの異端の力が働いているからか。
双子が揃って頭に薔薇を乗せると、カノンは満足気に頷き、その場に居る者全員に向け、言った。


「仲直りしたから、お茶休憩」
「は?」
「お茶?」
「みんなで、お茶休憩。シトリーも、レライエも。ホムラも、ヒヅキも。一緒に」


何故此処でその様な言葉が出て来るのか。確かに時刻は午後の三時を回り、ティータイムとするには丁度良い頃合いだ。それにしても、些か急では無かろうか。各々が他の人間の反応を見て、如何対応すべきか悩む。
そんな中、カノンの言わんとしている事を理解しているミギワが、彼女の言葉を補足する様に口を開いた。


「アフタヌーンティーの準備をしていたんですよ。折角ですし、如何です?」


元々は、カノンとミギワで楽しむ予定で準備をしていた。紅茶と、茶菓子と、諸々を準備し、その部屋に向かおうとした所で、四人が居る部屋の前を通り掛かったのだと。葬儀屋の幹部が六人全員揃う事は余り無い。交流も兼ねて、皆で楽しむのも良いのでは無いか。そう言う事なのだろう。


「美味しいケーキ、みんなで食べたい」
「……そう言う事なら、行ってやっても良い……かなぁ」
「本当に君は素直じゃないね。此処は気持ち良く乗るべきじゃあないのかい?」
「寧ろ乗らない方がおかしい雰囲気だな……レライエはどうする」
「まぁ、偶には良いかな」
「決まりですね」


四人が事情を理解し、お茶休憩に乗ってくれる事を知り、カノンが目を輝かす。


「みんな、一緒。こっち、こっち」


少女一人に対し、野郎五人のお茶会。絵面的に如何なものかと。その場に居る少女以外全員が思ったが。今更断る訳にも行かず、其々が苦笑したり溜息を吐きながら。先導する少女に続き、室内を後にした。




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