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そんな双子とホムラ、ヒヅキの様子を、開いている扉から覗き込み、眺める存在が居た。


「…………」
「嗚呼、またやってるんですね」


覗いているのは二人。一人は未だ幼さの残る顔付の少女で、ふんわりとした薄紫の髪に、丸く大きな漆黒の双眸が印象的だ。纏っているのはフリルをふんだんにあしらった黒いドレスで、胸元とヘッドドレスには真赤な薔薇が咲いている。
もう一人は青銀の髪と深い蒼の瞳を持つ、温厚そうな青年だった。歳はホムラやヒヅキと同じ位だろうか。此方は青を基調とした袈裟に身を包み、手には数珠が巻き付いている。
騒ぎを聞き付けたのか、それとも偶々通り掛かったのか。部屋の中の四人を少女は黙って見詰め、青年は困った様に笑いながら呟く。少女の名はカノン、青年の名はミギワと言い、カノンは『花葬』を冠し、ミギワは『水葬』を冠する。二人共、今この場に居る他の四人と同じ、葬儀屋の幹部だ。


「発端が何かは分かりませんが、この空気は嫌ですねえ」
「…………」


今にも殴り合いに発展しそうな双子と、それを止められず困惑するホムラとヒヅキの様子を遠巻きに眺めていたカノンは、隣で苦笑するミギワの袈裟を掴み、軽く引っ張った。
口数の少ないカノンの言わんとしている事を理解したミギワは困った様に眉を撓め、如何したものかと思案する。喧嘩は良くない。止めるべきだと。そう言いたいのだろう。葬儀屋の幹部に就任してからと言うもの、幹部の喧嘩――殆どがホムラとミギワ、シトリーとレライエだが――の仲裁に入らされるのは基本的にミギワだ。穏やかな平和主義である為に、彼等の争いを止めるのに適任であるというのは分かるし、自覚も有る。ただ、毎回の様にその役目をやらされるのは流石にしんどいものがある。しかし、カノンが心配そうに見ている手前、嫌ですと首を横に振る訳にも行かない。


「今回も派手に言い争っている様で……ああ、もう手が出てしまいそう」
「…………」
「ビャクヤ様に怒られるのに、凝りませんねえ――……、カノン?」


シトリーがレライエに対し、拳を振りかざした所でカノンは二人の元へと駆け出した。小走りで近付き、丁度二人の間に割って入る形でシトリーの動きを制止させる。それを見たレライエは瞳を見開き、ホムラとヒヅキもまた、驚いた様に互いの顔を見合わせた。


「……、カノン?」
「おや、カノンじゃないか。どうしたんだい?」
「…………」


レライエを殴り飛ばそうとした拳を寸での所で止め、シトリーが間に入った存在を確認する様にその名を呟く。レライエもまた、殴られる前に避けようと構えた姿勢を解き、訊ねる。突然の乱入に戸惑う二人に対し、カノンは自らの両手の人差し指を交差させ、バツの形にしてアピールをして見せた。


「喧嘩、だめ」
「……は?」
「だめ、だめ、だめ」


見た目よりも幼く、拙い調子で紡がれる彼女の言葉の意味を一瞬理解出来ず、双木の動きは止まり、ホムラとヒヅキは更に困惑し、首を傾げる。それでもカノンはバツを全面に押し出し、漆黒の瞳でじっと見上げた。


「言われてますよ。二人とも」


カノンの後を追う様に歩いて来たミギワは、彼女の気持ちを分かり易く代弁する様に二人へ声を掛ける。


「喧嘩する程仲が良いとは言いますが」
「それは無い」
「有り得ないね」
「ええ、ええ。それは貴方達が思ってる事。でもカノンにはそう見えるんです。本当は仲良しなんだって……そうでしょう?」




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