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ホムラが説明しようとするのをわざと遮る形でヒヅキが言い、再びホムラが怒り、噛み付く。どうやら二人で仕事をして、その際に問題が生じたらしい。ホムラは一人で出来ると思ったが、実際はそうではなく、ヒヅキのフォローが必要だったのだろう。ただ、如何な経緯が有ったかは分からないが、ヒヅキのフォローの仕方にも問題が有り、結果としてこうして口論する原因になってしまった。
互いの不満をぶつけ合い、吠え立てる二人の様子に、シトリーとレライエは揃って嘆息し、肩を竦めた。


「あーったく!一緒に仕事する奴がお前じゃなくてシトリーだったら良かったのに!」
「それは僕にも言える事だ。今回の仕事、シトリーさんかレライエさんだったらもっと効率的にこなせた筈だからね」


喧々囂々。最早殴り合いに発展してもおかしくない状態の中、急に二人がシトリーとレライエに話を振って来た。お互いに、相棒が相手では無く、今目の前にいる双子のどちらかだったら良かったと。それを聞いたシトリーとレライエは一瞬驚き、ほぼ同時に瞳を瞬かせる。
一体何を思って、彼等は相棒にしたいと言ったのだろうか。疑問が湧くも、それに対して思う事はシトリーとレライエも一緒であり、気付けば二人同時に口を開いていた。


「シトリーはやめた方が良いよ。直ぐに怒るし、殴って来るし」
「レライエはやめた方が良い。人の言う事を聞かないし、我儘だ」
「え?」
「あ?」


二人揃って互いの可能性を否定し、首を振る。けれど相手の言葉が聞き捨てならず、シトリーとレライエは直ぐに顔を見合わせ、威圧する様に低い声を発した。


「おかしいな。私はただ真実を言っただけなのだけれど」
「それは私も同じだ。お前は何時だって私の言う事を聞かない」
「聞かないんじゃないよ。お前が無茶な要求をして来てるだけさ」
「私が何時無茶な要求をした。」
「何時だってしてるじゃないか。その度に殴られてボロボロにされる私の身になっておくれよ」
「どの口が言う。私の言う事を素直に受け入れていれば、殴られずに済むものを」


先程まで口論をしていたホムラとミギワを差し置き、其々の不満をぶつけ合う。ホムラとヒヅキはかなり激しく言い争っていたが、シトリーとレライエの言い争いは淡々としていながら殺伐とした空気を纏っており、何とも言えない凄みを感じる。シトリーは普段の物調面で、レライエも常と変わらぬ笑みを浮かべながら言い合っているが、どちらの目も据わっており、一触即発の気配がする。
双子の喧嘩は何時もそうだ。言いたい事を言うだけ言って、納得出来なければリアルファイトに持ち込む。容赦無くお互いの顔を殴り合い、大体勝つのは腕力で勝るシトリーだ。ただ、レライエにも意地が有る様で、負けるのが分かっていても痛み分けまで持ち込もうと食い下がる場面がしばしば見られる。


「お、おい、どうすんだよこの雰囲気」
「僕に言わないでくれよ。そもそもこうなる原因は君にあるんだから」


その場に流れる重い空気に居心地の悪さを感じ、ホムラが隣に立つヒヅキを肘で突付き、言う。声が先程よりも小さくなっているのは、目の前の双子のプレッシャーに気圧されている為か。
同じ葬儀屋の幹部であり、各々の実力が如何程かは知っている。知っているが故に、ホムラもヒヅキもこの双子の喧嘩の仲裁に入ろうとは思わなかった。双子は強い。異端者でありながら、魔法使いであるホムラ達と同等に渡り合う実力を持っている。そして二人が組めば、魔法使い以上の実力を発揮する事も、身を以て知っていた。


「やべーよ、やべーって。此処で喧嘩されたらまた」
「ビャクヤ様に怒られる……だろう?でもどうしようもないじゃないか。僕だったら見なかった事にして逃げるね」


ひそひそと、先程まで自分達が喧嘩していた事も忘れ、目の前の危機的状況について相談し合う。触らぬ神に祟り無しとは良く言ったもので、下手に止めようものならば此方がとばっちりを食う事になる。シトリーの拳は受けたくないし、レライエのカラスに突付かれるのも嫌だ。逃げようか、否か。けれど発端が自分達である為、何とも去り辛い雰囲気である。ホムラとヒヅキは気まずそうな表情で互いを見遣り、唸った。




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