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「あー……もう見付かっちゃいましたか」


依頼人と共に行動をしていたジェレマイアは、突然周囲を取り囲む様にして前に現れた存在に眉を撓め、指先で頬を掻いた。
カーキ色の軍服を着用し、様々な武器で武装した兵士達。依頼人は顔を真っ青にし、ジェレマイアに身を擦り寄せる。彼等が何者なのかは、依頼人は勿論、ジェレマイアも分かっていた。この村を壊滅させた帝国軍の一隊。依頼を受けた際、遭遇する可能性を考えなかった訳では無い。護衛任務となっている以上、依頼人を何から守るべきか、は見当がついていた。だが、まさかこんなに早く見付かるとは思わなかった。


「手を上げろ」


兵士達のリーダーと思しき男がジェレマイアの正面に立ち、威圧的な声を放つ。それに気圧された依頼人は直ぐに両手を上げ、ジェレマイアは少し悩んでから同じ様に両手を顔の側面までゆっくりと持ち上げた。


「まだこの近くをうろついてたのか」
「まだって言うかさっき来たばっかりなんですけどね」
「此処で何をしていた?」
「探し物ですけど」


ジェレマイアが隠さずに答えれば、兵士達は互いの顔を見合わせ、何やらひそひそと話をしている。リーダー格の男は不審そうにジェレマイアと依頼人を交互に見、更に問いを重ねた。


「その探し物は何だ」
「貴方達に言う必要は有りませんね」
「何だと」


笑顔で、しかしきっぱりとジェレマイアは拒絶の意を示した瞬間、周囲の空気が張り詰める。依頼人は青い顔の儘、ジェレマイアと男のやり取りを見詰めていた。護衛として雇った相手が、武装した兵士達をどう対処してくれるのか。魔法使いならばそう簡単に殺される事は無い筈だが、取り囲まれている状況は芳しくない。一触即発の状況故、余計な事は言わないで欲しいと。そう思った時だった。


「おい」


突然ジェレマイア達の背後より声が掛けられ、皆が一斉に振り返る。瓦礫の山の影から出て来た相棒の姿を見、ジェレマイアは待ってたと言わんばかりに口元に笑みを浮かべた。


「物騒なモン持ったオッサン達が丸腰の奴等囲って何してんだ」


両手を組み、訝しむ様に彼等を見詰めるニュクスに対し、兵士達もまた不審そうにニュクスを睨み返す。村人の生き残りとは異なる出で立ちに、警戒を強め、先程よりも威圧的に男がニュクスへ詰問した。


「貴様、此奴等の仲間か?」
「だったら何だ?」
「此処は我が帝国が管理する地。不審な者達は野放しに出来ん。大人しく我々と共に来て貰おう」
「……断るって言ったら?」
「決まっているだろう。帝国に仇なす者とし、この場で即刻処刑する」


男の言葉を聞いた瞬間、依頼人は表情を強張らせた。そうだ、これが彼の国のやり方だ。何時もそうやって、何の罪もない者達から奪って来た。恐怖を感じると共に、言い様の無い怒りがこみ上げて来る。自分達はただ、平穏に暮らしていただけなのに。


「へえ、テメエ等が?俺を?殺すって?」


依頼人の様子に変化に気付いているのか、いないのか、ニュクスは男が放った言葉を聞いた瞬間、喉で低く笑った。己に向けられた脅しの意味を噛み砕く様に一つ一つ言葉を区切り、確認する様に男へ聞き返す。周囲の兵士達はニュクスの言動を不審に思い、各々が持つ武器を彼へと向け、威嚇した。
しかし、それを見たニュクスは浮かべる笑みを深くし、両手を自身の背後へと回し、隠す様な仕草を仕草をして見せた。一体何を考えているのか、その場に居る者達には理解が出来ず、張り詰めた空気が漂う。
唯一、ジェレマイアだけがニュクスが何をしようとしているのか分かっているらしく、依頼人の肩を叩き、小さな声で「気を付けて下さいね」と忠告した。


「良いぜ、相手してやるよ」


ジェレマイアの忠告の意味について依頼人が考えるより早く、ニュクスが背後へ回した手を前方へ戻し、掲げる。その先程まで空手だった両手には、白銀の銃身が握られており、兵士達が驚きの声を上げる。コートの内側に隠しておくには大き過ぎるし、背負っている様にも見えなかった。何の武装もしていないのに、一体どこから取り出したのか。考える間も無く、ニュクスが動いた。


「ば、馬鹿な……一体――!?」


動揺した兵士の一人に銃口を向け、言葉が終わる前にその頭を撃ち抜く。ぱぁん、と。高く、弾ける様な音が響き渡り、撃たれた兵士の身体はゆっくりと後方に倒れて行った。本物だ、あの銃は本物だぞ。頭から血を流し、絶命した同志の姿を見、兵士達の間に戦慄が走る。その隙に、ニュクスは地面を蹴り、駆け出した。


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