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葬儀屋には、幹部が六人いる。
火葬のホムラ、氷葬のヒヅキ、水葬のミギワ、花葬のカノン、土葬のシトリー、鳥葬のレライエ。それぞれの能力に合った葬法の称号が与えられている。
全て社長が斡旋したらしいが、如何な経緯で彼等がその座に就く事になったのか。知る者は少ない。


「だから、昨日は俺に全部任せておけって言ったろ!?何勝手にしゃしゃり出て来てんだよ!」
「君の方こそ何を考えているんだ。あの場面はどう考えても僕が主でやった方が良い状況だったじゃないか」
「はぁー?お前それ本気で言ってんの!?」
「君だって冗談にしては笑えない事を言っている自覚は有るのかい?」
「んだとぉ!?」


ビャクヤへの報告を終え、廊下を歩いていたシトリーとレライエは、ある部屋から聞こえて来る声に顔を見合わせ、足を止めた。二つ聞こえて来るそれはどちらも若い男のもので、覚えのある声だ。
『また』やっているのだろうか。そんな事を考えながら、中へと通じる扉に手を掛け、ゆっくりと押し開く。会議室として使用されていたのだろう。部屋の中心に大きな机が有り、それを囲む様にして複数の椅子が置かれている。声の主は、その机を挟んで奥の空間に居た。入口から一番遠い所に居るにも関わらず、部屋の外にまで聞こえる声量で、二人の男が口論をしていた。一人は深紅の髪に、同色の瞳を持つ青年、もう一人は濃紺の髪に、同色の瞳を持つ眼鏡の青年。二人とも黒いスーツに身を包み、腕には喪章が有る。歳は同じ位だろうか。遠目から見れば、大学生だと言っても疑われないだろう。


「何だ、またやっているのか」
「そうみたいだねえ……」


彼等はシトリーとレライエが良く知る人物だった。深紅の髪の青年は『火葬』を冠するホムラ、青銀の髪の青年は『氷葬』を冠するヒヅキ。どちらも双子と同じ、葬儀屋の幹部だ。
彼等の部下達は既にそうなると分かっていたのか、既に全員立ち去った後で、仲裁に入ろうとする者は誰一人として居ない。葬儀屋の名物となっているホムラとヒヅキの諍いは、下手に関わると酷い目に遭う。故に、互いの怒りが収まるまではそっとしておくのが暗黙のルールとなっている。
炎と、氷。相反する属性故か、彼等はそりが合わず、犬猿の仲である。


「お前表出ろよ!今日こそどっちが強くて正しいか、はっきりさせてやるぜ!」
「強いのは僕だし、正しいのも僕だ。そんな事で君と争うなんて非効率的だね」
「こんの野郎、言わせておけば!」


普段ならば口論のみで済む所だが、今日は何時にも増して血気盛んだ。最早殴り合いは秒読みか。下手をすれば殺し合いに発展しかねない。口喧嘩までならば未だ許されるが、暴力沙汰になるのは非常にまずい。如何するか、シトリーがレライエへ視線を遣れば、彼も同じ様に困惑しているらしく、半笑いを浮かべながら彼等を見ていた。


「……おい、お前達」


レライエは喧嘩の仲裁に向かない。寧ろ悪化させかねない。ならば彼等を止められるのは、己しか居まいと。シトリーは互いの胸倉を掴み、罵倒し合う二人の傍へ歩いて行くと、状況を確認しようと二人に問いを投げ掛けた。


「随分派手に口論をしている様だが、そもそもの発端は何だ」
「あっ!?居たのかよシトリー」
「居るならば一声掛けてくれても良いじゃあ無いか」
「……お前達が熱くなっていて気付かなかっただけだろうが」


シトリーが声を掛けた事で、初めて彼の存在に気付いた。そんな二人の様子を見て、レライエは吹き出し、シトリーは眉間に皺を刻む。口数は決して多く無いが、だからと言って存在感が全く無い訳では無い。この扱いは何なのかと。恨みがましい視線と共に彼等を見返すと、喧嘩の原因を聞き出そうと口を開いた。


「それで、何故此処で口論をしていた」
「おう、聞いてくれるかシトリー。それなんだがな……」
「自分だけで十分だと大見得切って自滅しかけてた奴を助けてやったら文句を言われたんだ」
「あぁん!?今何つった!?」




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