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「仕事は無事に終えた様だな」


日中。南エリアに存在する葬儀屋の支社内。
秘書室に顔を見せた双子の姿を確認した仮面の男は、彼等に与えた仕事の完遂を確信し、満足気に頷いた。


「期限ギリギリになってしまったけどねえ」
「何とか、終わらせた」


双子――シトリーとレライエは、仮面の男の言葉に対し、無事にと言うには少々難の有る状態であった事を告げ、小さな溜息を吐く。手に持っている、今回の仕事の報告書をデスクに座る彼へと提出すれば、レライエが苦笑いの様な笑みを浮かべ、言った。


「ニュクスが直ぐに動ける状態じゃなかったから、思っていたよりも余裕が無かったよ」


今回の仕事は大掛かりなものであった為、二人は外部の人間であるニュクスにヘルプを依頼する事にした。しかし彼はその時行方不明となっており、連絡も取れない状態だった。その為、仕事に割く時間を削り、街中を探し回った。彼の自宅は勿論、行きつけのバーや、診療所、カジノ。居そうな所はくまなく探した。そうして出会いたくない人物との邂逅を経て、ニュクスはある廃屋の一室で発見された。
行方不明となった元凶によって媚薬漬けにされたニュクスは、身動ぎするだけでも辛いらしく、ベッドの上で一人悶えていた。薬の所為で全身が火照り、夜風に撫でられるだけでも言い様の無い快楽が生まれる。けれどそれは最早苦痛の域に達していた。


「ついでに、公開セックスショーを見る羽目になるとは思わなかった」


その為、薬を抜くにはそれ以上の快楽で気をやってしまうのが手っ取り早いと。状況を理解したレライエはニュクスに襲い掛かり、徹底的に辱め、犯した。勿論、その場にはシトリーも居合わせていた為、彼等のセックスの一部始終を離れた所からずっと見ていた。混ざれば良いでは無いか、と。途中でレライエが言って来たが、堅物で有名なシトリーが乗る訳も無く。何十分、何時間と。目の前で繰り広げられる兄弟と銀月のまぐわいを見物させられた。その時、眉一つ動かさず情交を眺める様は、ニュクスにとってこの上ない羞恥プレイとなっただろう。


「あれは酷い拷問だった」
「だから、混ざれば良かったのに」
「ふざけるのは顔だけにしろ」
「おや、お前と同じ顔だけれどねえ?」


ぎろりと睨み付けて来るシトリーの視線を平然と流し、レライエが愉快そうに笑う。今でこそ上機嫌だが、ニュクスを襲った時のレライエの荒み方は尋常では無かった。この世で最も忌み嫌う存在を見てしまったが為に。また、その存在に軽く煽られたが為に。シトリーと共に気持ちは酷く荒れていた。その所為でニュクスはかなり手酷く犯されたのだが、彼等の関係を知らない彼からすれば、とんだ八つ当たり。とばっちりの嫌がらせである。
結果、ほぼ一晩中犯されたニュクスの体からは薬が抜けたが。彼はセックスにおける快楽の副産物とも言える腰痛を抱え、二人の仕事に付き合わされる事となった。断る事も出来ただろうに、律儀に付き合ったのは、その時に見た二人の荒んだ空気に押し負けたが故か。


「喧嘩は外でやってくれ」


二人の間に険悪な空気が流れるのを察知した男が、それを抑制せんと声を掛ける。この双子、仕事に於いては阿吽の呼吸で、素晴らしい活躍を見せてくれるが、平時は何か有れば直ぐに口論へと発展させ、酷い場合は殴り合いの喧嘩になる。仲が良いのか、悪いのか。正直判断し難いが、何にしても室内で喧嘩をされては堪ったものではない。
男の訴えを聞き、シトリーとレライエは互いの顔を見合った後、二人揃って舌打ちをし、そっぽを向きながら黙った。こんな所でも息が合うのは、矢張り双子と言うべきか。


「それで、次の仕事は有るのかい?――ビャクヤ」
「今の所は落ち着いている。だが帝国と王国の情勢がかなり不安定になっているからな。何時でも出られる様にしておけ」


ビャクヤ、と呼ばれた仮面の男は、レライエの問い掛けに対し首を横に振る。彼はシトリーとレライエが所属する葬儀屋の社長補佐を行う『秘書』であり、彼等の上司にあたる。先日、ナハトとの間で発生しかけた諍いを止められたのも、彼の方が立場が上であり、抑え込めるだけの権力、能力が有ったからだ。


「嗚呼、分かった」
「何かあったら教えておくれ?」


社長からの指示は全てビャクヤから伝達が行き、幹部を通して葬儀屋全体に行き渡る。新たな仕事が有れば今の内に聞いておこうと思ったが、どうやら現在は何の指示も無いらしい。その事実を確認すると、シトリーとレライエは再び揃って頷き、『持ち場』となっている場所へ帰参するべく踵を返し、部屋を後にした。


「……今は不安定なりに安定しているが、この先如何なるか。全く読めないな」


部下であり、能力のある幹部である二人の姿が扉の先に消えたのを見届け、ビャクヤはぽつり、と。誰に言うでも無く、一人呟いた。




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