6

やり取りは淡泊だが、空気がギスギスしている。これは喧嘩をして来たに違いないと、傍に居るジェレマイアは苦笑いをしながら再びカップを手に取り、軽く啜った。
この双子、生活リズムが正反対である為、揃って行動する事は滅多に無い。共に行動するのは、彼等が所属している葬儀屋の仕事が絡んでいる場合が殆どだ。それ以外の時は、大体入れ替わりながら活動をしている。二人の仲は良好とは言い難く、何か有れば直ぐに衝突し、周囲からすればはた迷惑な喧嘩へと発展する。ただの口論で済めば平和な方で、酷い場合は互いの能力を用いた、殺し合いに近いリアルファイトを繰り広げる。
今日は口論か、軽い殴り合い程度で済ませて来たのだろう。レライエが笑っている為、事態は其処まで深刻では無さそうだと、ジェレマイアは一人で分析し、横目で二人の様子を観察した。


「喧嘩するなら外でやりな」
「……否、別に喧嘩をしに来た訳では無い」
「そうそう、マスターに訊きたい事が有ってねえ」


店内での喧嘩を御法度とするマスターが、声を低めて言う。もしこの双子が本気の喧嘩を始めれば、店が壊れかねない。勿論その前にマスターが二人を出禁とするが、可能であれば穏便に事を済ませたい所だ。
二人の注文を紅茶として受け、マスターはケトルで湯を沸かし、戸棚より紅茶の入った缶を取り出す。食器棚からはジェレマイアが手にしているものと同じタイプのティーカップを出し、手際良く準備を進めて行く。途中でシトリーに砂糖やミルクの有無を訊ね、どちらも不要と聞けば黙って頷いた。


「それで、訊きたい事って言うのは何だ?」


ポットを用意しつつ、湯が沸くまでの間に紅茶のお供となりそうな菓子は無いかと棚を漁る。その際、先程レライエが言っていた次第について二人へ訊ねた。


「ニュクスの行方を知らないか?」
「へ?ニュクスくん?」


シトリーが口にした相方の名を聞き、ジェレマイアが驚いた様に声を上げた。
ニュクスが二人に用が有ると言うならば分かるが、その逆は非常に珍しい。しかも、シトリーだけでなく、レライエも共にと言うのだから不思議と思うのも無理は無い。一体どう言う風の吹き回しか。ジェレマイアが軽く身を乗り出し、二人の方を見遣れば、彼の思う事を察したシトリーが淡々とした調子で話し始めた。


「社長からの命だ。次の仕事は国境付近で遂行される。この都市内のものよりも大掛かりな仕事となる故、信頼のおける者に手伝って貰えと」
「言って来たのはビャクヤだけれどねえ。取り敢えず、手っ取り早く頼めるのがニュクスだと思ったのだけれど」
「……社内の人では駄目なんですか?」


何故ニュクスなのかと。純粋に感じた疑問をジェレマイアが投げ掛ける。葬儀屋は大きな組織だ。社員の数も非常に多い。外部の者に頼むよりも、内部の者を使った方が早いのでは無いか。相応に実力の有る者をと言っても、候補となり得る者が全く居ないとは思えない。特に、シトリーやレライエと同等の立場の者――幹部クラスならば、ジェレマイアも名前だけ知っている。彼等では駄目なのだろうか。


「他の幹部達を頼ろうと、思わなかった訳では無い。だが彼等にも彼等の仕事が有る。特にホムラは一番人気だからな」
「火葬はねえ……仕方ないよ。最近は花葬も人気が有るし。水葬と氷葬も珍しく大きな仕事が入っていてね」


頼みようが無かったのだと。シトリーは溜息を吐き、レライエは笑いながら肩を竦ませた。
彼等が次々と上げる葬法は、葬儀屋における幹部の通称だ。其々が持つ能力に応じた役職を与えられ、幹部の『名』となる。シトリーが土葬、レライエが鳥葬を冠しているのも、二人が持つ能力が由来となっている。
どの幹部も忙しく、声を掛けられる様な状態では無い。その為、外部の人間でそれなりに親しく、高い実力を持っているニュクスに白羽の矢が立てられた。そう言う事なのだろう。


「はあ、忙しいんですね。葬儀屋さんって」
「忙しいさ。暇になる様な事は無いねえ……需要が無さそうな私にも、存外仕事は来るんだよ?」
「お前の場合、残飯処理班の様になっているがな」


鳥葬の需要は決して高く無い。寧ろ無い位だ。それでもレライエに仕事が回って来るのは、貪欲で悪食な彼の能力が便利であるが故か。血肉はおろか、骨まで残さず、彼と彼の鴉が喰らい尽くす。この南エリアではごまんといる、正式な葬儀を必要としない、掃いて捨てる様な存在を片付けるのには、手軽で具合が良い。
身も蓋も無く言い放つシトリーを、レライエは肘先で突付いて黙らせる。実際そうなのだから何も言えないが、機嫌が余り良く無い今の状況で聞くのは、少々腹立だしかった。
そんなシトリーとレライエ、ジェレマイアの会話を聞きながら、マスターは沸いた湯で紅茶を淹れ、慣れた手付きでカップに注ぐと、二人の前に差し出し、言った。


「悪いが、ニュクスの行方は知らん。此処数日は、この店にも顔を出して無ぇ」




[ 56/167 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -