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「い、らねえっ……!」
「相変わらずだなァ、銀月。けど俺は好きだぜ?お前のそういうトコが」


強気で、勝気な所にそそられる。そして、そんな彼を屈服させるのが、楽しい。ニュクスの傍まで来たナハトはその場で膝を折り、ニュクスと視線を合わせ、俯き気味だった顎を取って無理矢理上へと向かせてから、噛み締める様に言う。対し、ニュクスは嫌悪の色を顔一杯に滲ませ、何とかして振り払おうと身動ぎする。全身が鉛の様に重くなってしまっている今、満足に動く事は叶わないが、それでも目の前に居る男から少しでも離れたい一心で、ニュクスは必死に身を捩った。


「またたっぷり可愛がってやるから、精々良い声で鳴いてくれよ」


嫌がるニュクスの首へ持っていた首輪を嵌め、僅かに生じた隙間へ指を差し込むと軽く引っ張り、状態を確認する。続いて、腰に下げている手錠の一つを手に取ると、ニュクスの手を後方へ回し、僅かな抵抗をものともせずに掛けてしまった。
こうなってしまうとニュクスにはもう如何する事も出来ない。最大の武器である銃は、後ろ手では上手く扱えない。仮に拘束が無くても、未だ重く圧し掛かる力の所為で殆ど動けない。
手錠がしっかり掛かった事を確認すると、ナハトは立ち上がり、指を鳴らす事で近くに控えていた己の部下達を呼び出す。主人の為に何時でも出られる様にと、息を潜め待っていた彼等の首には、ニュクスに嵌められた物とは異なる黒い首輪が付いていた。


「北の屋敷に連れて行け。着いたら何時ものクスリをブッ込んで、ぎっちり縛っとけ」


聞くだけでも鳥肌の立つ指示を、ナハトが部下達に下す。それを聞きながら、ニュクスはこれから行われる『調教』と言う名の地獄に全身を戦慄かせた。
その後、ナハトが掛けていた重力は解除され、それまでの重さが嘘の様に体が軽くなるも。ニュクスの身は複数の男達によって押さえられ、必死の抵抗も虚しく、近くに用意されていた車へと引き摺られて行った。


「嗚呼、やっぱり銀月の髪が一番綺麗だなァ」


離せ、やめろ、ふざけんな。そんな声を上げながら、部下達に連れて行かれるニュクスの後姿を眺め、ナハトが感嘆の吐息を漏らす。これからあの揺れる銀糸に触れ、撫ぜる事が出来る。そしてその身は己の手によって蹂躙され、乱される。想像するだけで股間が熱くなり、気持ちが昂る。他の奴隷の調教に於いて、この様な状態になる事は先ず無い。それだけニュクス――銀月の存在は特別だった。


「さァて、今度はどんな調教をしてやろうか」


連れ去った先で行う調教の次第を思いながら。ナハトは喜悦の笑みを浮かべ、部下達によってニュクスが押し込まれた車に乗り込んだ。



***



「珍しいな、お前等が揃って此処に来るなんて」


深夜。月桂樹のバーに、滅多に見られない珍しい二人組が現れた。
少し遅い夕食を済ませ、マスターと他愛の無い世間話をしていたジェレマイアは、ドアベルと共に店内へ入って来たその人物達の姿を見て、驚きの表情を浮かべる。マスターは表情にこそ出さないが、珍客とも言える二人に対し、軽い会釈と共に挨拶代わりとなる言葉を投げ掛ける。


「久し振りだな、マスター」


揃ってやって来たのは、南エリアで最も有名な双子だった。葬儀屋の土葬・シトリーと、鳥葬・レライエ。全く同じと言って良い容貌を持ちながら、醸し出す雰囲気によりどちらがシトリーで、どちらがレライエか、簡単に判別が付く。
シトリーは声を掛けて来たマスターに対し、目礼を送る事で会釈を返す。後から続いて入って来たレライエはと言うと、余り機嫌が良くないのか、笑みこそ浮かべているものの、何も言わずに二人のやり取りを見詰めていた。それから直ぐに、シトリーはジェレマイアに向けても目礼して来た為、ジェレマイアは持っていたミルクティーのカップをソーサーに置き、『どうも』と短い挨拶の言葉を返してやった。


「少し聞きたい事が有って、レライエと来た。座っても良いだろうか」
「ああ、其処に座んな。何か飲むか?」
「それなら紅茶を二つ、頼みたい」
「おや、私は紅茶が飲みたいなんて一言も言っていないのだけれど?」


カウンターに座るジェレマイアの隣のスツールを引き、シトリーが腰を下ろす。それとほぼ同時にマスターは注文を取ろうと声を掛けるが、やや遅れてシトリーの隣に座ったレライエが彼に対し抗議の声を上げた。口調こそ常と変わらないが、その言葉には棘が有る。此処に来る前に、二人の間に何か有ったのだろうか。


「大して酒も飲めない癖に、何を飲むと言うんだ」
「確かにお酒は苦手だけどねえ、コーヒーを頼むかも知れないじゃないか」
「なら聞くが、お前は何を飲む?」
「そうだねえ、気分的には紅茶かな?砂糖無しの」
「……聞かなくても同じではないか」




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