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男が住んでいたと言う村は、話の通り焦土と化していた。
村人が住居としていた建物はその殆どが破壊されており、当然ながら人の気配は無い。襲撃を受けてから何日経っているか分からないが、惨状の爪痕は深く残されていた。


「本当にしっちゃかめっちゃかにして行きましたねえ」


傍らにあった瓦礫の山を見て、ジェレマイアが独り言の様に呟く。嘗ては男の言う通り、自然豊かな美しい村だったのだろう。燃えた木の残骸に、壊れた水車、そこに繋がる干上がった水路はその名残か。
略奪を行うのに果たして此処までやる必要があるのだろうか。否、あの国の事を考えれば此処までして当然なのだろう。


「それで、アンタが住んでいた家はどの辺になるんだ」
「こっちです。自慢じゃありませんが、村では一番大きな家でした……今じゃ見る影もありませんけどね」


男に案内される儘、ニュクスとジェレマイアは焼け焦げた道を歩き、進む。その先に有ったのは他の場所同様、大量の瓦礫の山で形成された空間だった。本来の家屋は二階建てか、それ以上の高さが有ったのだろう。他よりも瓦礫の量が多い様に見える。
この中から、男が探しているものが果たして見付けられるのか。ニュクスとジェレマイアは互いに顔を見合わせ、嘆息した。


「……重労働だな」
「ニュクスくん頑張ってくださいね」
「お前もやるんだろうが」
「主にやるのはニュクスくんでしょう。僕はほら、体力有りませんし」
「此処に来てか弱いアピールしてんじゃねえよ」


お前は女子か。重いものを運んだり動かすのが苦手だと言うジェレマイアに、ニュクスは眉間に皺を刻み抗議する。ニュクス自身も其処まで体力が有る訳ではないが、確かにジェレマイアに比べれば幾らかましだ。しかし、仮にそうだとしても少しでもサボれば容赦はしないと。ニュクスは万が一の事を考え、ジェレマイアに男の傍に居る様に言い、一人で瓦礫の山に踏み込んだ。

小さな瓦礫は足で退かし、大きな瓦礫は手で押し退け、帰りの道を確保しながら嘗ての間取りを予想し、探って行く。途中の探し易そうな箇所は後方のジェレマイア達に任せ、ニュクスは奥へと進んで行った。
瓦礫の山から出て来る生活用品だったモノ達は、その殆どが壊れており、使えそうにない。時折骨董品らしきモノも出て来たが、ニュクスには価値が分からない為、そのまま放置し、更に探索を続けた。


「……?」


瓦礫や家具の残骸を持ち上げ、転がし、動かし、退かして。それでも依頼人が求めていそうなものは何一つ見付けられず、体力ばかりが消耗される。疲労が蓄積し、少し休もうと思った所で、ニュクスはふとその手を止めた。

焼け焦げた木材の下から出て来た小さな収納箱。他のものよりも幾らか頑丈そうに見えるそれにもしやと思い、引き出しに手を掛ける。動きが悪い為、力任せに引っ張り、強引に開けると、中から一枚の写真が出て来た。
写真は随分前に撮影されたものの様で、現在よりも若い依頼人と、彼の家族と思しき面々が写っている。多少傷んでいるのが気になるが、家の大半が消失した中でこれだけ残っていたのは奇跡と言って良いだろう。文明レベルが然程高くないこの国で、如何な手段で撮影をし、写真として手に入れる事が出来たのかは疑問だが、今はその事について考える必要は無い。

念の為、下の段の引き出しも開けてみたが、小物が僅かに収納されているだけだった。他は粗方探索し尽くした為、ニュクスは手に入れた写真を懐にしまい、依頼人の元へ戻ろうと踵を返した。
しかし、先程までは存在しなかった不穏な空気を感じ、数歩歩いた所で足を止めた。入り口の方に、明らかに己等以外の者であろう気配を感じる。それも一つ二つでは無い。依頼人はジェレマイアが傍に居る為、何とかなるだろう。それにしても妙に嫌な予感がする。
ニュクスは出来るだけ気配を殺し、瓦礫の山の影を利用しながら其方へ向かった。



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