10

夕方。
森で取れた食材を冷蔵ボックスいっぱいに詰め、ニュクスとリュウトは南エリアへ向かう帰路に就いていた。


「沢山とれたなぁ」
「まさかクマを解体するとは思わなかったがな」


冷蔵ボックスを肩紐で下げ、更に仕留めた獲物の毛皮を羽織ったリュウトが、前でバイクを運転するニュクスに声を掛ける。
熊と対峙したリュウトは、拳のみで挑み、大した傷も負わずに勝利した。殴って弱った処を背後に回り込み、首を絞めて落とした。普通の人間には決して出来ない芸当であり、現場を見ていたニュクスは乾いた笑いしか出なかった。
倒した熊は直ぐにその場で血抜きを行い、ニュクスが殆ど一人で解体した。巨体であり、捌く道具がナイフしか無かった為、解体には時間が掛かったが、毛並みの良い皮は綺麗に剥ぐ事が出来、肉も良い状態で切り出せた。


「これでマスター喜んでくれるかな?」
「……熊はどうか分からねえな」


冷蔵ボックスの容量が許すだけの肉を詰め込み、持ち帰れない分はその場に残して来た。自然の生き物だ。その儘にしておけば、何れは他の獣の餌となるか、土に還るだろう。毛皮はリュウトが記念に持って帰りたいと言った為、沢の水で洗って彼に持たせた。乾き切っていない状態が気になるが、リュウトは構わず背に掛け、マントの様に羽織った。
キノコ、木の実、魚、熊肉。メモに書いてあったものはほぼ手に入った。熊の肉は硬いと聞くが、マスターならきっと上手く調理してくれるだろう。美味いかどうかは別として、南エリアでは珍しいジビエ料理が出るとなれば、店に来る客の数も増えるのでは無いだろうか。


「いやぁ、それにしても楽しかったな」
「……そうか?」
「だって南エリアじゃあんな事出来ないじゃん?自然の恵みに万歳っつーか。熊と戦えたのもなぁ、良かったわ」
「普通、熊に会ったら逃げるモンだがな」


一応、これはマスターに――半ば強制的に――頼まれたお使いであり、遊びに行っていた訳では無いのだが。一日を振り返り、楽しかったと言うリュウトに対し、ニュクスはただ苦笑するしか無かった。


「お前さ、本当に人間か?」
「え?分からないけど……何で?」


リュウトは異端者では無いと言う。だが、普通の人間と言うにはその身体能力は異常だ。彼の国が有している、生体兵器でも無ければ有り得ないと言っても良い。
寧ろ彼は生体兵器なのではないかと、ニュクスは思った。ただ、それだったら理性も知性も無い、ただ破壊活動をするだけの化け物の筈だ。最高傑作と言う名の『例外』も居るが、奴等は無数に居る兵器の中で指折り数える程度しか存在しない。彼には理性と知性のどちらも備わっているが、魔法は使えない。少し抜けた所は有るものの、それは天然の一言で片付けられるレベルだ。
もし、彼が生体兵器であるとするなら、更に別の疑問が浮かぶ。外の国の兵器が何故単体でこの中立都市に居るのか。何故理性と知性『だけ』有るのか。兵器と呼ぶには、余りにも緩いのではないか。


「……いや、何となく聞いてみただけだ」
「そうかぁ。ところで酒がそろそろ切れそうなんだけど」
「まだ着かねえから上手く節約して乗り切れよ」
「えぇー」


考えてもきりが無い。浮かんでは消える仮定や疑問を振り払う様に頭を振れば、背後で酒が無くなりつつあるリュウトの嘆きを適当にあしらい、ニュクスは南エリアに向かってバイクを走らせた。




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