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「……うん?」


それらしき匂いを探り、地面を擦りながら移動をする事、数分。リュウトの鼻先に、土の匂いに混ざり、嗅いだ事の無い芳香が漂って来た。
四つん這いの体勢でずるずると匂いのする方へと向かい、一層香が強い所で、止まる。枯葉の敷き詰められた地面が少し盛り上がっている部分に違和感を覚え、片手でその葉を払い除ければ、其処から丸々とした茶色いキノコが現れた。


「あーった、あった。これだね」


艶の有る肉厚な茶色い笠に、白くて太い柄。枯葉の下に隠れていたキノコはそれだけでは無く、周囲を見れば円を描く様にして点在している。
リュウトは柄が途中で折れない様、根元から土を穿り、取り上げた。根元に付いている土を払い落とし、改めてその匂いを嗅ごうと鼻先に近付ける。


「うん、確かに良い匂いだ。銀月も嗅いでみるかい?」
「……良くこの匂いが分かったな」


すんすん、と鼻を鳴らし、鼻腔内に広がる香りに満足気な笑みを浮かべる。後ろに立っていたニュクスにもキノコを差し出し、匂いを嗅いでみる様促すと、ニュクスはそれを手に取り、同じ様に鼻先へ近付けて見た。リュウトの言う通り、匂い自体は悪くない。だが、土と枯葉の中に居る状態で見付け出すには、少々香が弱い気がする。ニュクスがリュウトと同じ姿勢で探しても、見付ける事は出来ないだろう。大した嗅覚だと、ニュクスは周囲に有るキノコを採取していくリュウトの背中を見ながら感嘆の吐息を漏らした。


「どれ位持って帰ればいいのかな」
「取り敢えず見付けた分は入れときゃ良いだろ」


次々とキノコを採取し、籠へ入れて行くリュウトがニュクスに確認を取ると、採れる分は採っておけと答えが返って来た。言われる儘見付けたキノコを採り、再び地面に這い蹲り、匂いを探す。必要な行為であるとは言え、移動する際の動きが如何にもゴキブリの様で気持ち悪いとニュクスは思った。だが、彼の力無しでは今回の仕事は非常に時間が掛かってしまう為、止めろとも言えず黙って見守る。


「そう言えば、キノコ以外は何を採るんだい?」
「後は木の実と、魚と……捕れたらジビエも欲しいな。マスターのポイントが上がる」
「ジビエはちょっと難しい気がするけどなぁー……魚はどう取る?」


メモにはキノコの他にも、今が旬なのか様々な食材が書かれている。マスターは全て採って来なくても良いと言っていた。だが、此処で指定されたものを全て手に入れる事が出来れば、溜め込んでいるツケが減る処か、無しになる可能性が高い。折角遠路遥々北エリアまで来たのだから、持って帰れるものは限界まで持って帰りたい。


「川で釣るに決まってんだろ」
「道具持って来てないのに?」
「馬鹿、作るんだよ」


バイクに乗る際、長くて邪魔だと言う理由で釣り竿は持って来なかった。その為、如何して魚を釣るのかとリュウトが首を捻る。すると、ニュクスは懐から透明な袋に入った釣り針と細い糸の束を取り出し、掲げて見せた。


「糸と針は持ってる……と言うか持たされたからな。丈夫な枝でも有ればそれで十分だが。何ならお前の刀を使っても良いが」
「それはやだなぁ……」


即席の釣り竿を作る。それは分かったが、竿にする枝を調達する必要が有る。適当な枝では魚の抵抗に負け、折れてしまうかも知れない。だが、リュウトの持つ刀の鞘ならば、大物が掛かっても耐えられるだろうと。意地の悪い笑みを浮かべながら言うニュクスへ、リュウトは苦笑し、緩く頭を振る。


「なら枝を探して来い。俺がその枝を使って竿を作る」
「竿なら此処にもあるぜ?」
「ぶった切ってやろうか?」


自らの股間を差し、リュウトがにたりと笑う。彼の言わんとしている事を理解したニュクスは、直ぐに嫌悪の色を顔に滲ませ、持っている糸で切ってやろうかと脅しを掛ける。これだから酔っ払いは嫌なのだと。下品な発言をするリュウトに対し、ニュクスはこれまでに無い、深い溜息を吐いた。如何にも、彼は所謂下ネタが好きで困る。黙っていれば顔立ちもそこそこ良い為、凛とした好青年になると言うのに。酔ってだらけて、煩悩だだ漏れの姿が全てを台無しにしている。




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