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「はえ?おにーさん魔法使いなの?そっちなの?このおにーさんじゃなくて?……うっそぉ」


ニュクスの呟きを聞き、女は酷く間の抜けた声を上げ、ジェレマイアとユリシーズを交互に見る。視界を塞がれ、慌てふためいていたジェレマイアに、攻撃を弾いただけでなく、痛い反撃をして来たユリシーズ。どちらが優れ、『魔術師』ではなく、『魔法使い』と思われるか、嫌でも理解出来る。
ただ、それにより。ユリシーズのこめかみがぴくりと動いたのを、ジェレマイアは見逃さなかった。


「どう見てもおにーさんの方が魔法使いよねぇ。そっちのおにーさん魔法使いには見えないわぁ……っていうか、おにーさんみたいな人でも魔法使いとは限らないのね。それっぽいのに……」


嗚呼、これは非常にまずい展開だ。ジェレマイアは魔術師として平凡以下である事を然程気にしていない。魔法使いであると言う事に対し、過敏でも無い。
だが、ユリシーズは魔術師として優秀である事に相応のプライドを持っているし、同時に魔法使いで無い事に同等か、それ以上のコンプレックスを抱いている。彼の事を少しでも知る者ならば、絶対に触れてはいけない案件だ。
それを女は、知らなかったとは言え正面から切り込んだ。彼の地雷を盛大に踏み抜いた。神への信仰心は無いが、ジェレマイアは内心で女に対し、十字を切らずにはいられなかった。


「世の中って、わからないものね……――きゃひんっ!?」


悪気無く言う女の目の前に、電撃が走る。突然の事だったが、異様な殺気を感知した女は反射的に横に転がり、すんでの所でそれを回避した。先程のは威嚇目的だったが、今放たれたものは完全に女を狙っていた。一発で死ぬと言う事は無さそうだったものの、派手に穿たれた地面に、ニュクスとジェレマイアの背中に嫌な汗が滲む。もし当たっていれば、肉が焼けるだけでは済まされない。恐らく骨まで焦げただろう。今の電撃は、それだけの威力を持っていた。
突然の攻撃に驚き、女がユリシーズを見る。電撃を放った彼は、口元は緩い孤を描いているのに、眼鏡の下の瞳は射殺さんばかりの冷たさを以て、女を見下ろしていた。ユリシーズの周囲には、彼の内に宿る静かな怒りを代弁するかの様に、青白い雷が弾けている。


「質問の前に、少し仕置きをしておこうかね。この東エリアの治安を脅かした、貴公に」


意味が分からないと瞳を瞬かせる女に、発端となった発言をしたニュクスは僅かだが同情した。これはユリシーズの八つ当たりだ。完全なる八つ当たりだ。だが、そのきっかけとなる地雷を踏んだのは女自身だ。知らなかったとはいえ、どうしてユリシーズが一番コンプレックスとしている事を言ってしまったのか。運が無いと言うべきか、今後の展開を考えると少々気の毒に思えた。


「安心したまえ、私は其処の二人の様に命を奪う等と言う野蛮な真似はしない。だが暫く悪事が働けない様、その爪を戒めておこうか」
「ちょ、ちょっと待って、まって、まっ――!」


殺さない、と断言はしているが此処はいっそ殺された方が良いのでは無かろうか。ユリシーズの表情を見て、ニュクスは乾いた笑い声を漏らした。ジェレマイアはと言うと、ニュクスを支えていた片手を自らの目元に当て、この後の悲惨な光景を出来るだけ見ない様にと顔を背ける。
そして、女の制止の言葉が終わるより先に、狭い路地に巨大な雷の柱が生まれ、周囲は眩い光に包まれた。




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