13

突然遮られた視界に焦り、慌てた様子で一人ばたばたと暴れる。最後に見えた視界を思い出し、冷静に対処すれば良いものを。思いがけぬ事態に錯乱しているのか、本来助けるべき存在であるニュクスに、ジェレマイアは助けを求めた。
己と共に仕事をする様になって、随分経つ。少しは異端者の何たるかや、こう言った危機的状況の脱し方は或る程度理解し、把握しているものと思ったが。想像以上に使えない目の前の相棒の姿に、ニュクスは頭が痛くなった。


「それ位燃やして何とかしろよ!魔術で出来るだろ!」
「何言ってんですか!この儘燃やしたら僕まで火傷しちゃうじゃないですかやだーっ!」
「なら切って吹き飛ばせよ!」
「凄いべったりしてて取れる気しないんですーっ!」


三流とはいえ、魔術師の端くれだろうがと突っ込みたかった。だが、此処へ来る前にバーでしでかした失敗を思い出し、益々頭が痛くなった。何故彼には魔術の才があんなに無いのだろうか。魔法使いならば、それなりに魔術も扱えると思うのだが、一体何が違うのだろうか。疑問に思うも、その辺りの知識が無いに等しいニュクスには理解が出来ない。


「それじゃあ、今度こそ、ね?」


目の前で無様にばたばたとしているジェレマイアを眺めていたニュクスは、彼に糸を放った女の声によって彼女の存在を思い出し、身を強張らせた。壁から糸は離れたが、体を拘束している糸は未だ解けていない。銃も握れず、距離を取る為に走る事も出来ない身は、再び女の手に捕らえられた。細い指が、今度こそと言う言葉通り、ニュクスの首筋に這い、狙いを定めんと何度も皮膚の上を行き来する。
そして、丁度具合の良い所を見付けたらしく、女は小さな声で『いただきまぁす』と呟き、ニュクスの皮膚に牙に見立てた爪を食い込ませた。


「あっ、ぐ……!」


爪は簡単に皮膚を貫き、躊躇無くニュクスの体内へと侵入していく。刺された瞬間の痛みは小さなものだったが、爪が内部へと進む度に、痺れる様な痛みが傷口からじわじわと全身に広がって行く。反射的に逃れようと身を捩るが、女の力はその見た目からは想像出来ない程に強く、がっちりとニュクスを掴んで離さない。
食い込んだ爪は或る程度の深さまで入り込んだ所で止まるも、如何な力が働いているのか、次には体内の血を一気に吸い上げ始めた。通常の怪我ではまず有り得ない、物凄い速さで血が失われていくのが分かる。


「う、ぁ……ッ、くぅ!」


この儘では己も変死体の様に干乾びてしまう。何とかして女を引き剥がさなければと思うものの、強力な拘束の上に体力を奪われている状況で出来る事等皆無に等しく。
視線を女の顔へと遣れば、彼女は恍惚とした表情を浮かべ、ニュクスから吸い取っている血を堪能している様だった。
最初は必死になって暴れていたが、血を吸われて行くのと同時に全身から力が無くなって行き、それにより、ニュクスの意識は徐々に朦朧として来た。非常に危険な状態だと、分かっているのに己は何も出来ず、相方のジェレマイアも未だその場でじたばたもがいているだけで役に立たない。脳裏に死の影がちらつく。蘇生してから数日と持たず、また死ななければならないとは。


「何とも情けないね」




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