12

「遅ぇよ、三流」
「三流って言わないで下さい!途中で見付からなくって大変だったんですから!」


助けて貰ったにも関わらず、彼の口から出たのは救援が遅いと言う文句だった。それに対しジェレマイアは声を荒げ、此処へ来るまでの過程が難儀だったと言い返した。
囮となっていたニュクスの支援の為に距離を取っていた筈だが、見失ってしまった。だが、ニュクスはそんなに複雑な道を行ったつもりは無いし、早歩きだった訳でも無い。ジェレマイアがうっかりして見逃したとしか、ニュクスには思えなかった。


「……鈍臭いテメエに期待した俺が馬鹿だった」
「はぁ!?ちょっと、失礼過ぎやしませんかね!?」


恩知らずにも程が有る。少しは感謝と言うものをして貰いたい。糸塗れで未だ自力では殆ど動けないニュクスへ、ジェレマイアは更に抗議する。露骨な溜息を吐き、明後日の方向を見ている彼に返したい言葉は山ほど有ったが、現在の状況ではそれは少々難しい。


「なぁに?おにーさんの仲間?」


現れるなりニュクスと小競り合いを始めたジェレマイアを見て、女はかくりと首を傾げる。捕らえた獲物にあり付こうとした瞬間に邪魔をされ、僅かながら苛立っている様子が表情から見て取れる。
女の声に我に返り、ジェレマイアが其方の方へ顔を向けると、丁度女と目が合った。清楚な格好に対し、凶暴な雰囲気を醸し出している女のギャップに、ジェレマイアは戸惑いを隠せなかった。それに対し、女は品定めをする様にジェレマイアを頭から爪先までじっくりと眺め、やがてゆるゆると頭を横に振った。


「うーん、そっちのおにーさんはあんまり好みじゃないかもぉ」
「え、は?……そ、そうですか」


初対面で、明らかに敵と認識出来る相手にそう言われても、怒りは感じない。ただ、其処まではっきりと言われてしまうと、流石にショックである。ジェレマイアだって男だ。フェミニストを自称する男だ。貶されるよりは褒められたい。
落胆し、声量が意識しなくても落ちてしまう。ニュクスは体に絡む糸の事も忘れ、ジェレマイアの分かり易い態度に乾いた笑いを漏らした。敵とは言え女相手に、少し甘いのではないかと思う。


「だからぁ……ちょっと黙ってて」


ジェレマイアが立ち直るよりも先に、女は片手を振るい、何時の間にか伸ばし、垂らしていた糸を彼に向けて放った。しかし、糸は拘束をする為ではないらしく、緩い軌道を描き、ジェレマイアの顔に振りかかった。


「はい?えっ……わっ!?」


女が如何な能力を持っているか、今来たばかりのジェレマイアには分からない。風の力によって払い除ける間も無く、糸はジェレマイアの顔の上半分に纏わり付き、彼の視界を遮った。咄嗟に拭おうと手で触れるが、粘性は非常に強く、逆に拭おうとした手まで顔面にくっ付いてしまった。ニュクスの体を拘束している糸程の強度は無い様だが、それでもジェレマイアの力では到底何とか出来るものではない。


「ちょ、み、見えない!見えないんですけど!?ねえ、ニュクスくん!たすけて!たすけてーっ!」




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