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「それで、犯人に関する情報は有るのか?」
「マスターに調べて貰ったが、有力な手掛かりは見付からなんだ」
「はぁ?そんなんでどうしろてんですか」


手掛かり無しでどうやって犯人を見つけ出せと言うのか。冗談は止してくれと。ジェレマイアが声を荒げると、ユリシーズは喉を鳴らして笑った。


「見付けられないのならば、此方から誘き寄せれば良いだろう?」


然もありなん、とばかりに頷きながらも、返した答えは完全な無茶振りだった。元々生きている世界が違うからか、本当にこの男は何を考えているのか分からない。ジェレマイア同様にニュクスが反論しようとして、ユリシーズが片手を挙げ、制する。


「聞けば被害に遭っているのは殆どが若い男女で、皆見目が良いそうだ」
「……はあ、美男美女って事ですか。イケメンとか、美人とか。見目麗しい、みたいな……、……」


ユリシーズがジェレマイアから視点をずらし、奥に居る己に向けた処で浮かべた意味有り気な笑みに、ニュクスは嫌な予感がした。ジェレマイアの方はと言うと、予想していなかった言葉の意味を理解するのに時間が掛かっているらしく、首を傾げた状態で一人で黙っている。しかし、暫くして察しが付いたらしく、勢い良く振り返る形でニュクスを見た。


「ニュクスくん、出番です」
「俺かよ」


笑顔で親指を立て、言い放つ姿にニュクスがすかさず突っ込む。ニュクス自身、自覚は無いが、周囲の人間には確かに外見を良く褒められる。顔が整っている、瞳が綺麗、長い髪が美しい。何れも大して気にした事は無かったが、それを目当てに近付いて来る者が少なからず居る為、勘違い等では無く、事実なのだろう。更に言えば、ニュクスは男でもあり、女でもある。ユリシーズが提案した囮作戦に最適な人材である事は間違いない。


「他に適任が居ると思うかね?」
「僕じゃ無理だと思うんですよねー」
「……一番手っ取り早いんじゃねえか?」


此処に来てマスターまで同意して来た。退路を断たれ、ニュクスは複雑な表情で其々の顔を見る。


「お前等なぁ……」


言い出しっぺが囮になって誘い出せば良いでは無いかとニュクスは言ってやりたかったが、口論でユリシーズに勝てる気がしない。一言文句を言うだけでその数倍、鬱陶しい位の量の言葉が返って来る。何とか言い負かしてみたいものだが、それに労力を費やすのも馬鹿らしい。かと言って手を上げれば、魔術で反撃されるのが目に見えている。尤も、この場での諍いは御法度であり、許されていないのだが。


「あー、はいはい。やれば良いんだろ、やれば」


三人の視線を受け、ニュクスは諦めた様に手を掲げ、頭を下げる。変死体を作っている犯人が如何な人物か、会って見ない事には分からないが、己とジェレアイアで行けばそう手こずる事は無いだろう。上手く行けばニュクス一人だけで片が付くかもしれない。
ニュクスが囮役を引き受ける意志を示すと、ユリシーズは満足気に頷いた。分かれば良いのだと、薄い笑みを浮かべ、小さな拍手をする姿に内心苛立ちを覚える。ジェレアイアの方を見遣れば、彼は彼で如何とも言えないと言った様子で目を細め、ユリシーズを見ていた。

その後、ユリシーズは二人へ報酬の金額と支払方法を簡易に伝え、飲みかけだった紅茶の最後の一口を飲み干し、立ち上がった。


「貴公達の仕事ぶり、期待しているよ」




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