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その会議室は、城の中庭を抜けた先、東の塔の最上階にあった。
広い空間の中心に大理石の円卓を囲う形で並べられた7つの椅子。そこに座っているのはエゼルベルトを含め5人。残りの椅子は空席となっている。一際大きな造形の椅子にはエゼルベルトが、他の椅子には彼の部下達が指定された場所にそれぞれ座っている。
宮廷魔導師。その中でも突出した能力を持つ、精鋭中の精鋭。それが彼等、七賢人と呼ばれる者達であった。長であるエゼルベルトを筆頭に、嘗ては6人の魔法使いが国内の魔術師、魔法使い達を纏め上げていた。


「揃っているな。それでは、定例会議を始める」


椅子に座っている者達が揃っている事を確認し、エゼルベルトは報告書として用意されていた書類を机上に広げた。


「既に知っていると思うが、先日我らが同志、フリックがブリッタの砦における防衛線で敗北、自決した」


最初に報告すべきは、七賢人の一人が命を落としたと言う、悲しき報せ。王国の中でも秀でた魔法使いの殉死は、貴重かつ多大な戦力を失ったと言う意味でも痛く、残された者達に沈痛な面持ちを浮かべさせた。
帝国との戦いは此処数年、膠着状態が続いていた。王国側は被害を最小限に留め、何度も和平交渉を試みたが、帝国側は頑としてそれを受け入れなかった。自分達の勝利こそが正義であると疑わず、降伏しないのならば殲滅するまでと。少しずつ戦力を強め、王国を追い詰めようとしている。その中で以前より研究が進められていた生体兵器が目覚ましい発展を遂げ、完成型と呼ばれる三体が、近年脅威となって王国に牙を剥けていた。


「これにより、我が国の領土の10分の1が帝国に奪われる形となった」


生体兵器の完成型達と、帝国が持ち得る軍の力全てを以てすれば、王国の制圧は不可能ではないだろう。一気に畳みかける事をしないのは、戦火によって王国の豊かな土地を焦土としたくないと言う考えがあるからか。帝国は大きいが、その土地の多くが枯れ、痩せていると聞く。小さいながらも、自然に恵まれた王国の土地は、帝国の者達からすれば非常に魅力的であり、この戦で最も欲している『報酬』であろう。無理やり攻め入って、その土地を自ら台無しにする様な真似は、避けたいと思っている筈だ。その為に、帝国は王国の領地を出来る限り傷付けぬ様、小規模の戦を幾度も仕掛け、じわじわと侵略を進めている。


「七賢人の二柱を失ったのは、痛手である」


七賢人と呼ばれる存在は、本来ならばその名の通り七人いなければならない。しかし、帝国軍によって二年前に一人が捕虜にされ、既に生死不明となっており、今回の戦で一人が殉死した。二人が欠け、その後を継ぐ者が現れていない状態の為、現在七賢人はエゼルベルトを含め、五人となっている。


「後継者の育成は進めているが、まだ未熟な者達ばかりだ。育つまでは、我々が引っ張るしかない」
「……中立都市の魔術師を呼ぶと言う話があったと思うのですが、そちらはどうなりましたか?」


エゼルベルトの言葉が途切れた所で、椅子に座る者の一人が挙手し、質問する。以前、中立都市には最強と呼ばれる魔術師がいると聞いた。魔法使いでは無いが、その実力は高く、純粋な戦闘能力で言えば一介の魔法使いを凌ぐとも。そんな人物を、エゼルベルトは自国へ招き入れる事が出来ないか試みた。その案件はどうなったのか。


「残念ながら、拒絶された。彼のルーツは王国にあると聞いていた故、応じてくれると期待していたのだが」
「……そうですか」


中立都市の市民を、王国の者が無理やり引き入れる事は出来ない。断られたならばそれまでだ。エゼルベルトの返答を聞き、質問した者は心底残念そうな顔をし、沈黙する。戦力の確保が課題となっている今、如何な手を使ってでも人手を集めたい所ではあったが。
明らかな落胆を見せる姿へ、エゼルベルトもまた申し訳なさそうに俯き、拳を握る。此の儘ではじり貧だ。何とかしなければならない。分かっているが、これといった打開策も出ない今、出来る事と言ったら一つしかない。


「私も国の為に最大限尽力する。貴公等にも、苦労をさせてしまうが……どうか、耐えてくれ」


ただただ、抗う。叶う事なら、敵の綻びを突き、瓦解させる。可能性は低くても、ゼロではない。耐え、忍び、そして倒す。王国の者達は辛抱強い。エゼルベルトも、他の七賢人も、それを信じて戦う。
エゼルベルトの言葉に、異を唱える者は無く。その後は各地にある砦の今後の作戦を決め、定例会議は閉会となった。




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