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灯りの無い路地裏に鴉の鳴き声と人の悲鳴が響き渡る。
普通の鴉は主に日中に活動し、夜になるとその殆どが休息し、何処かへ姿を消す。しかし、異端の力によって生み出された鴉はその逆で、夜の闇が深ければ深い程活発に活動する。
レライエの能力で具現化した鴉達は、其処に有る影より無限に生まれ、彼等に襲い掛かる。剣で斬っても、魔術で払っても消えぬ鴉に獲物達は慄き、やがて退路を断たれ、その嘴の餌食となった。


「もう少し悲鳴を上げてくれた方が、気持ちも昂るんだけどねえ」


鴉の猛攻によって全身穴だらけとなり、絶命した獲物の一人を見て、レライエが笑いながら呟いた。猛攻によって本体から離れ、周囲に飛び散った肉片は鴉達が全て突いて喰らい、綺麗にする。その中には髪が付いた頭皮や爪の付いた肉も有ったが、鴉達は欠片も残さず呑み込んだ。
廃屋内に居た先の四人は全て片付けた。残りは更に先に居る三人だが、レライエは其処へ向かう前に膝を折って地面に座り、鴉が喰らい切らなかった目の前の骸へ手を伸ばした。


「若い男は好きだけれど、少し年の行った男の内臓も嫌いではないよ?」


肉を何度も穿たれた事により露わになった、本来内側に隠れている筈の鮮やかな臓器達。既に本体の息は無いが、未だ艶やかなそれにレライエは笑みを深めた。血で汚れる事も厭わず、両手を骸の体内へ差し込み、其処に有った臓器の一部を力任せに引き抜く。ぶちぶちと、細胞の切れる耳障りな音と共に出て来たのは、沈黙の臓器と呼ばれているそれだった。
周囲に充満する血の臭いが一層濃くなる。一般の者が見れば卒倒しかねない状況の中、レライエは引き抜いた臓器に頬ずりをし、付着している血を丁寧に舐め取り、先端に歯を立てた。水気の多い音と共に食い千切り、咀嚼し、嚥下する。一連の動作を酷く緩慢な動きでした後、彼の動きは一気に加速した。


「……、また派手にやってやがる」


獲物の味を堪能するのは最初だけ。その後は欲望の儘喰らい続ける。悪食、悪鬼、と称される姿を遠巻きに眺めていたニュクスは口元を引き攣らせ、苦笑した。彼の行動が上品に見えたのは僅かな間。現在の鴉と共に肉を貪り食う姿には、品性の欠片も見られない。これであのシトリーと兄弟だと言うのだから、俄かでなくとも信じ難い。


「……つーか、雑魚と魔術師は殺るんじゃなかったのか?」


ふと、シトリーとレライエが行動に移る前の会話を思い出し、首を捻る。目の前の彼は『食事』に夢中になる余り、明らかに当初の目的を忘れている。別で動いているシトリーが如何しているのか、考えようとした所で背後に殺気を感じた。


「矢張りこうなったか」


ニュクスが振り返った先で、そのシトリーが眉間に皺を寄せ、立っていた。想像していたよりも事の運びが悪い事を疑問に思ったのだろう。そしてそれは或る程度予想していたとばかりに、低い声音で言葉を紡いだ。




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