12

「ふえ……びっくりしました」


ナハトが去り、気が抜けたのか。ジェレマイアは座り込んだ状態で大きな溜息を吐いた。


「銀月、あの変な奴は知り合いだったのか?」
「知り合いな訳ねえだろ。ぶっ飛ばすぞ」


乱れた服を整え、のろのろと立ち上がるニュクスへリュウトが声を掛ける。するとニュクスは舌打ちと共に理不尽な返答をし、ナハトが最初に姿を見せた場所を見遣った。傍の階段から行く事が出来る上層階。其処にも何かあるのか。何にせよ、既に今いる場所は大体調べた。不穏分子も排除された。此処で果たすべき任務は果たした。後はもう帰還するだけとなっているが。
ニュクスは何も言わずに階段へ向かい、それを見たジェレマイア達も後に続く。古びた鉄製の階段は錆び切っており、一段上る度に軋んだ様な、不快な音を立てる。その場にいる誰もが、全員一度に上れば壊れると思ったか。先を行く者が完全に上り切ってから続き、一人ずつ上層階へと辿り着く。


「なんですか、ここ」


階段を上った先にあったのは資料の保管庫の様だった。先程いた場所よりも狭い空間。壁一面に本棚が並び、その棚には分厚いファイルが隙間を作らず並べられている。部屋の中央には大きな机が置かれており、その上にも大量のファイルや本が積み上げられていた。


「資料室、みてえなモンか」
「うへえ……埃っぽいなあ」


積まれている本の一冊を手に取った瞬間、埃が舞い、リュウトが軽く咳き込む。ニュクスも近場にあった本を取り、中を確認してみるが、見た事のない言語が紙面いっぱいに書かれていた。異国の言葉だろうか。解読は出来ず、ぱらぱらとページを捲った後、元の場所へと戻す。


「何かこう、歴史的大発見! みたいなの無いですかね」
「あったら教授の大学に売りつけるんだけどなあ。読めないんじゃ話にならねえよお」
「その前にお前、普通の字読めるのかよ」


目に付く書物を片っ端から手に取り、中を見てみるものの、理解できる内容は見つからず、リュウトは眉を寄せる。学がある様には見えないリュウトに対し、ニュクスはまず一般的に使用されている言語の読み書きが出来るのかと指摘する。するとリュウトは『ちょっとだけ読めるぜえ』と笑いながら返し、持っている本を開いて中を見る。辞書並の厚さがあるそれは他の書物よりも使用感があり、表紙部分は剥げ、背表紙は破れかかっていた。
どうやらその本の内容は異国の言語では無く、ニュクス達が日常的に使用しているものの様だった。けれどリュウトが読むには難しかったらしく、傍らで本棚の書物を見ていた男の服の裾を引っ張り、声を掛ける。


「なあなあ、これ何て書いてあるんだ?」
「はい?」
「なんかこう、難しくて全然読めねえんだ。あ、言っとくけどオレが馬鹿なわけじゃねえからな?」


いや、馬鹿だろ。ニュクスの心の叫びも知らず、リュウトは男に持っている本を開いて見せる。頼まれた男は持っているファイルを棚に戻し、リュウトの方に向き直るとそれを受け取り、書かれている内容に目を通し始めた。


「……これは」
「何て書いてあったんだ?」


紙面の文章を読み進めて行くにつれ、男の表情は強張って行く。何か妙な事でも書いてあったのか。リュウトだけでなく、男の僅かな変化に気付いたニュクスとジェレマイアもその近くへと歩み寄り、覗き込む。


「クローン生成」
「くろーん? 何だそりゃ」


その言葉を口にした男の声が掠れていたのは、自らに思い当たる節があったからか。リュウトの頭の中には無い単語だったらしく、首を折れんばかりに傾げ、それが何なのかと男に訊ねる。




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