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「近付くんじゃねえよ、この変態が……!」


身を屈め、視線を同じ高さにして来るナハトに対し、ニュクスは嫌悪感を剥き出しにし、唸る。伸びて来る手を払いのけようとするが、体は重く、今の姿勢を維持するのがやっとな状態。持ち上げようとした手は僅かに床から浮いただけで、直ぐにべたんと押し付けられる様にして落ちる。それを見たナハトは心底楽し気な笑みを浮かべ、伸ばした手でニュクスの顎を掬い上げ、顔を背けられない様にした。


「冷たい事言うなよ。本当は会いたかったんだろ?」
「ざっけんな死ね」
「そろそろオレが欲しくて疼いて来るんじゃないかと思ったんだがなァ……?」


この辺りが。そう言ってナハトは反対の手をニュクスの下半身の方に向け、下腹部ー―丁度子宮がある部分ー―をついと撫で上げる。その手付きのいやらしさと、発言の気持ち悪さにニュクスは全身を戦慄かせた。逃れたい。出来る事なら殺したい。この生理的に受け付けない男から少しでも離れたい。そう思い、全身に必死に力を込めるが、増加した重力に潰されない様にするのが精いっぱいで、ニュクスは歯を食い縛り、動かない両手を強く握り締めた。


「嗚呼、なあ。久し振りに会えたんだ。此処で一発ヤらねえか?」
「はあ!?」
「屋外でのプレイってのも、中々燃えるモンだぜ?」


ナハトの提案に、ニュクスは冗談じゃないとばかりに声を上げた。どうすればそんな考えに至るのか。大体、周りにはジェレマイア達がいる。公開セックスショーなど論外だ。
反抗と拒絶の意を込め、ナハトを睨むが、それだけでこの男が諦める筈もなく。ニュクスが動けない様、重力はその儘にし、コートの前を寛げ、巻かれているベルトを外す。まずい。これは非常にまずい。本当に犯される。助力を求めようとジェレマイアの方を見るが、彼も重力に抵抗するのが精いっぱいな様で、此方を助けるどころでは無さそうだ。風を、得意な風を起こし、牽制してくれればそれだけでも状況が変わるのにと。声に出そうとした所で、ナハトの手がニュクスのインナーに潜り込み、その下にある乳房を握りしめた。


「ひ……」


肌に直に触れられ、思わず悲鳴が漏れた。女性としては大きな部類となる乳房を、ナハトは荒々しい手付きで揉みしだく。やっている事は完全に暴漢のそれで、ニュクスは恐怖を覚えた。過去に彼に犯された事は何度もある。必死の抵抗も虚しく、何時も良い様に蹂躙され、狂わされ。メンタル面はそれなりに強いと自負しているニュクスだが、それも何時まで持つか分からない。ナハトの執拗な行為により、何時か壊されてしまうのではないか。それこそ、今此処で、ジェレマイア達の目の前で。それは嫌だ。絶対に嫌だ。何としても、回避したい。
そんなニュクスの思いも知らず、ナハトはニュクスの身を押し倒そうと、胸に触れていない方の手で彼女の肩を押す。上体は傾き、重力に抗えず、後方へと倒れ込んだ。重くなった為か背中を強かに打ち、息が詰まる。嗚呼、もう駄目かもしれない。弱気な己がらしくないと思いながら、笑うナハトの顔を見遣る。
しかし其処で、ニュクスはナハトの背後に立つ人影に気付き、目を見開く事となった。


「おらよっ!」
「……ッ!」


掛け声と共に迫る、殺気。ナハトがそれに気付き、ニュクスから離れた瞬間、彼が居た場所に長い太刀の一撃が振り下ろされた。


「おいおい、この重力で動けるのかよ……」


間一髪。何とかその一撃を避ける事が出来たナハトは、攻撃を繰り出して来た人物を見て驚き、笑う。周囲の重力は増した儘。故に、動ける人物は重力を操っている己以外居ないと思っていたのだが。其処にいたのは、自身の得物である太刀を抜き、構えているリュウトだった。流石に動きは鈍いが、彼は重力に抗い、ナハトに攻撃を仕掛けた。普通の人間ではまともに動く事が出来ないこの状況で動くとは、どれだけの力が必要なのか。


「ちーっと重たいけどなあ、何とか動ける、ぜっ!」


獲物を捉えられなかった太刀はその儘床にめり込み、沈む。それを両手に力を込め、ゆっくりと持ち上げて見せると、リュウトは再びナハトに攻撃をせんと床を蹴り、駆け出す。どす、どすと。重い音を立てながら近付いて来るリュウトを見たナハトは舌打ちをし、彼に掛かる重力を更に増やそうと片手を上げる。


「ぐ、うぅ……!」


リュウトに向けられた重力の負荷は、倒れているニュクスにも降り掛かり、仰向けの状態で小さな悲鳴が上がる。これ以上圧を掛けられたら、内臓が潰れてしまう。その辺りはナハトも理解しており、無駄に傷付ける様な事はして来ないと思うが、それでも状況は芳しくない。リュウトの動きも鈍り、立っている事が難しくなったのか駆け出しかけた足は膝を付き、動かなくなる。
それを見たナハトが安堵の溜息を漏らし、彼から距離を取ろうと後方へ下がった瞬間、周囲に強風が吹き荒れた。




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