8

建物の中は荒れ果てていた。
使われなくなり、ヒトの手を離れて随分経つのだろう。そこら中が埃だらけで、壁は一部剥がれかけており、天井には蜘蛛の巣も張っている。電気は当然ながら点かず、薄暗い為、ニュクス達は事前に用意していた懐中電灯を手に、奥へと進んで行った。


「おい、触んじゃねえ。もっと離れて歩け」


先導するのはニュクスで、その横にリュウトが並び、後ろにジェレマイアと男が続く。リュウトはニュクスにほぼ密着している状態で、隙あらば尻を触ろうと手を伸ばし、その度に叩かれていた。


「いやぁー、ここに魅力的な尻があるのが悪いんだぜ?」
「……うっぜえ」


悪びれた様子も無く、にへらと笑うリュウトに対し、ニュクスは露骨な舌打ちをし、悪態を吐く。その隙に、リュウトはニュクスの腰を掴んで自分の方へと引き寄せようとするが、瞬時に気付いたニュクスが全力で阻止する。手の甲を思いっきり抓ってやると、流石に痛かったのか苦笑いをしながら手を引っ込めた。それでも、しばらくすればまた懲りずに手を出して来るだろう。心底鬱陶しいと、ニュクスは長い溜息を吐いた。


「そんなに嫌なら男になれば良いじゃないですか」


見かねたジェレマイアが後ろから声を掛け、何時もの姿になればと提案する。両性と言う、本来ならば有り得ない性別。任意に変えられると言うニュクスなら、出来る筈だが。普段から女性でいても余り良い事は無いと言っているしと。そう言った所でニュクスは足を止め、振り返った。


「なれたら苦労しねえよ」
「え、出来ないんですか?」
「数日はな」


何故、数日は出来ないのか。首を傾げるジェレマイアを見て、ニュクスは再び溜息を吐きながら説明を続けた。


「前に試した事があるんだが。性別を切り替えるのは思っているよりも体に負担が掛かるみてえでよ。強引になろうとすると大変な事になる」
「大変な事、と言いますと?」
「…………」


好奇心でジェレマイアが訊ねると、ニュクスは言葉を噤んだ。続きを話すのに躊躇しているのか、視線は若干泳いでいる。話し辛い事なのかと、ニュクス以外の三人が彼女に視線を注ぐと、ニュクスは顔を背けた状態で言葉を続けた。


「例えば、だ。今此処で男になろうとするだろ?」
「はい」
「まだ女になったばかりだからよ、体が変化に追い付かなくて中途半端な姿になっちまう」
「どんな感じに?」
「この見た目でナニが生える」
「は?」


少し躊躇い、紡がれたそれの意味が分からず、ジェレマイアは間の抜けた声を上げ、首を傾げる。ナニ、とは何か。怪訝そうにニュクスを見返すと、リュウトの方は察しがついたらしく、『あー』と微妙な声を出し、苦笑した。男の方も何となく理解出来たのか、複雑な顔をして黙り込む。そんな二人の反応を見て、ジェレマイアは自分だけ分かっていないもどかしさに唸り、詳しく教えて貰おうとニュクスを見遣る。


「だから、胸のある女の体にナニが生えちまう」
「ナニって、つまり」
「ちんこだよ、他に何がある」
「…………ええー……」


それは視覚的にもかなりキツいものがある。うっかり想像してしまい、ジェレマイアは顔を顰め、それを見たニュクスがだから話すのを躊躇したんだとばかりに嘆息する。女性の魅力が十二分にあるこのニュクスの体に、野郎の象徴とも言える肉棒が生える。一部のマニアには喜ばれるかもしれないが、大体の人間は退いてしまうだろう。ふたなり、と言うのか。えげつない光景である。
確かにそうなってしまうならば、数日のインターバルは仕方ないと言えよう。ようやくジェレマイアが納得し、リュウト達も理解した所で、歩いていた廊下が終わり、目の前に開けた空間が現れた。




[ 145/167 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -