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『葬儀屋』

それは中立都市に存在する組織である。
数十年前、社長となる人物によって設立され、以来葬儀を執り行う会社として中立都市で活動をして来た。
表向きは死者の弔いを行う、文字通りの葬儀屋である。しかし、その裏では中立都市の脅威となる存在を排除する掃討機関の役目も担っている。
トップである社長の下、秘書が一人と、幹部が常に複数名おり、更にその下には社員となる者達が数多く所属している。組織の結束力は強く、彼等の権力は中立都市を管轄する大魔女に次ぐとも言われている。
しかし同時に謎の多い組織であり、特に社長の素性を知る者は社員は勿論、幹部の中にも誰一人として存在しない。唯一、社長に最も近い位置に居る秘書が幾らか知っているらしいが、その情報もほんの一握りである。
シトリーとレライエは数年前より葬儀屋の幹部に就任しており、シトリーは『土葬』、レライエは『鳥葬』と、それぞれ幹部のみが与えられる称号を持つ。


「『送る』のは何人だ」


深夜3時を回った刻。南エリアの中でもならず者が多く暮らしている或る地域で。
古い建物の屋根の上に立ち、瞳を閉じた状態で佇むレライエへ、傍に立つシトリーが問い掛けた。


「……此処から五軒先の廃屋に四人、更にその一軒先に三人居るねえ。その内二人は魔術師だけれど、大した腕では無さそうだ」


自らの能力を用い、相手に気付かれない様に其処から動かず偵察をしていたレライエは、それまで閉じていた瞳を開き、澱む事無くすらすらと答えた。
レライエはニュクスと同じ異端者である。夜の闇と影を利用し、その中から無数の鴉を生み出し、使役する。それは攻撃から偵察、移動まで、様々な行動に用いる事が可能で、影の濃い夜の間はほぼ無限に能力を行使する事が出来る。傍から見れば、非常に便利な能力だった。


「ただ、魔法使いが一人居る」


レライエの言葉に、シトリーが僅かに眉を顰め、更にその後ろに立つニュクスも驚いた表情を見せた。


「そんな事まで分かるのか?」
「此方に聞かれているとも知らずに仲間同士でべらべらと喋っているよ。諜報員としては無能だねえ」


葬儀屋の幹部である二人に下された任務は、外の国の諜報員の『葬儀』を早急に執り行うと言うものだった。
王国の者と思われる彼等は帝国の手が届かないこの都市を拠点に、諜報活動を行っている。
中立都市に所属している者の中で、情報の売買を生業としている者は少なくない。しかし、外部の人間が外部の事情を都市内へ持ち込み、活動をする事は禁止されている。他国の諍いに干渉しない、中立都市の主義に反するからだ。そしてそれは中立都市内だけでは無く、近隣の国にも周知されている筈なのだが。


「何処の国にも馬鹿な野郎は居るもんだな」
「雑魚と魔術師は私がやろう。今日は未だ何も食べてなくて、腹も空いていたのでねえ。数も丁度良い」


不穏な呟きを残し、レライエは軽快な動作で屋根から飛び降り、深い闇の中へ姿を消した。


「ならば私は魔法使いを叩く」


既に見えなくなったレライエの影へそう言い、シトリーは彼が飛び降りた方面とは反対の方向から地面へ降りんと踵を返す。その際、すれ違い様にニュクスへ『絶対に邪魔はするな』と釘を刺す様に小さく告げ、それを聞かされたニュクスは分かってるとばかりに苦笑し、頷いた。


「しかしまあ……血生臭くなりそうだな」


空腹を訴えたレライエは、間違いなく今回の標的を『喰らう』だろう。彼の食事の仕方はお世辞にも綺麗とは言えない。最後に綺麗にすれば良いと思っている為か、兎に角派手に食い散らかすのだ。その光景は、一般人はおろか、そう言った場面に慣れたニュクスでさえ、目を背けたくなる時が有る。
シトリーにも念を押されたのも有り、今後の展開を考え、出来るだけ遠巻きに眺めることにしようと考えながら。ニュクスもシトリーの後を追うべく、屋根から闇へ飛び込んだ。




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