5

ただのそっくりさんと言うには余りにも似過ぎている。此処まで来ると兄弟か親戚を疑うレベルだ。しかしリュウトも彼も、互いに初めて会うと言わんばかりの反応を見せ、間に挟まれているニュクスとジェレマイアは訳が分からないと困惑する。


「あ、えっと……その」
「すっげーな。髪も目もおんなじじゃん。名前は何つーの?」


リュウトは男に興味を示し、椅子から立ち上がって彼の傍へと歩み寄る。珍しい生き物を見る様に上から下からじっくりと眺め、何もかもが自分と同じである事を確認し、名前を訊ねた。そんなリュウトの行動に男はどう対応すれば良いかも分からず、助けを求める様にニュクス達へと視線を送る。


「んだよ、知り合いとかじゃねえのか」


生き別れの双子とか、それに近い関係では無いかと思っていたが、どうやら違うらしい。二人の様子を見たニュクスが溜息交じりに言うと、男は小声で『すみません』と謝った。別に謝罪を求めた訳でも無い為、言われたニュクスは片眉を跳ね上げ、逆に自分が悪い事をした様な気分になり、がしがしと無造作に頭を掻く。


「知らねえなあ。オレ親戚とか兄弟とかいないと思うし」
「……思う?」


ひとしきり眺め、満足したのか。リュウトはふらりふらりと座っていた席に戻り、マスターに酒を注文する。ボトルキープしているものがあった筈だから、それを出して欲しいと。緩い笑みを浮かべながら言うと、マスターはカウンター奥の棚に向かい、ずらりと並ぶ酒瓶の中からタグの付いたボトルを引き抜き、グラスと共にリュウトへ差し出す。本来ならば店内が狭く、保管場所に困る為、ボトルキープはしないらしい。ただ、飲んだくれのリュウトの相手が面倒だと思ったのか、彼と常連の何人かに限り、ボトルキープをしていると言う。


「あー、んー、オレ昔の記憶が曖昧なんだよなあ。酒のせい、とかじゃなくて。どこで生まれたとか、どうやって生きて来たかとか、思い出せないっつうか、何つうか」
「はあ……」


ぽりぽり、と。顎の下を掻きながらリュウトは言い、出されたボトルの酒をグラスに注ぎ始める。酔っ払って記憶が無くなると言うのはリュウトに限らず人間良くある事だが、それはあくまでも飲んでいる最中の話だ。飲む前の、素面の時の記憶が無くなると言うのは考え辛い。出身地や、幼少期。そう言ったものは多少薄れはしても完全に忘れると言う事は無い筈だが、リュウトの中には無いと言う。


「なら、一番古い記憶は?」


ならばせめて、覚えている中で最も古い記憶は何かと、ニュクスが訊ねる。基本的に他人の事情には其処まで首を突っ込む主義ではないが、何の気紛れか。取り敢えず聞くだけ聞いてみようと、マスターに料理と酒を注文しながら答えを待つ。


「……どっかの良く分からねえ施設みたいなとこで暮らしてた……ような」
「施設?」
「そ。暗い部屋に閉じ込められて……オレ以外にもヒトがいて、毎日悲鳴みたいな声が聞こえて……えーと……」


其処まで言ってリュウトは言葉に詰まり、それ以上は思い出せないと頭を振った。何とか思い出そうとしている様だが、頭の中にもやが掛かっている様だと顔を顰め、グラスに注いだ酒を一気に煽る。
施設、とは一体どの様な場所なのか。少なくとも、暗い部屋に閉じ込められて悲鳴が聞こえて来る様な場所では、ろくな施設ではないだろう。一瞬、収容所の様な所ではないかとニュクスは思ったが、この近辺には人を収容する様な施設は存在しない。外の国――帝国や王国ならば、もしかしたら存在するかもしれないが。


「じゃあ、施設から出てどうやって中立都市まで来たんですか?」
「んー……その辺も覚えてねえなあ」
「ええー……」


この儘ではリュウトと男の関係は全く分からない。赤の他人でないとは思うのだが、ではどういった関係なのか、説明できない。他人の事情に深入りしないのが此処、南エリアでの暗黙のルールだ。けれど本人達を含め、全員が首を捻る事態となっているのだ。どうにかして二人の関係を明確にしたい。


「話の最中に悪いが」


カウンター席に座る四人が揃って悩み、唸っている最中。それまでのやり取りを黙って聞いていたマスターがニュクスに声を掛けて来た。




[ 142/167 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -