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「お前は、しんぱいしょうだね」
「兄貴……」


心配性。そう言われて、グルートは複雑な表情を浮かべ、ラヴィーネを見返す。他の兄弟と呼ばれる者達の関係がどの様なものかは分からないが、身内を心配するのは当然ではないのかと。言い返そうとした所で、ラヴィーネはグルートの横を抜け、歩き出す。


「兄貴、どこに」
「また、ねないといけないから」


与えられている部屋に戻るだけだと。数歩進んだ所でラヴィーネは止まり、振り返りながら言う。寝ないといけない、と言うのはそれだけ彼が力を酷使し、帰って来たからなのだろう。魔法使いとしての素質はグルートやレーレよりも遥かに優れているが、その分体力の消耗が激しく、長く活動をする事が出来ない。国境地帯の攻城戦に参加したと聞いているが、どれほどの規模で、どれだけの力を行使したのか。


「兄貴、でも」
「ごめんね」


まだ、もう少し話をしたいと。引き留めようとするグルートの肩を、レーレが掴み、制止する。それを見たラヴィーネは申し訳なさそうに一言謝罪し、冷気を振り撒きながら廊下の奥へと消えて行った。


「兄様、すごく疲れてるみたい」


引き留めるのを邪魔されたのが気に入らないのだろう。文句を言おうとするグルートへ、レーレは頭を振りながら先に言葉を紡ぐ。
鈍いグルートが気付いていたかは分からないが、レーレの目には、ラヴィーネが随分疲弊している様に見えた。あの様子だと、要塞を丸ごと凍らせる位の事はやって来たのかも知れない。
火力は高いが、燃費が悪い。軍の上層部がそうぼやいていたのを思い出す。実際、ラヴィーネは一度戦場に立てばその氷の魔法を以て周囲を圧倒するも、戻って来れば疲れたと言って直ぐに自室に戻り、眠りにつく。何も無い日でも大体自室で眠っており、自発的に活動する事は殆ど無い。


「……アイツら、兄貴に頼りすぎだろ」
「いくら強いからって……ねえ」


此処最近、ラヴィーネの稼働率が上がってきている。軍の最高司令官であるユーベルは、今が大事な時だと言っていた。敵対する王国への侵攻が、山場を迎えようと言うのか。
だったらもっと自分を使って欲しいと、グルートは以前上層部に言った事が有る。自分だって完成型と言われる一人だ。兄にばかり負担を掛けないで欲しいと。しかしそれに対する上層部の答えは冷淡で、色々と難しい話をされ、最終的に却下された。


「あのうんこ野郎さえ居なければ……」
「本当だよね。兄様がかわいそう」


大体、ユーベルが悪い。生みの親とも言える存在だが、その存在があるからこそ、自分達は自由に動けず、奴隷の様に働かされている。生体兵器に人権は無いのかと。不満を爆発させ、何度も歯向かった。本来ならば、人間の一人二人、潰す事等造作も無い。それが出来ないのは、反抗した際に動きを制限させる装置がそれぞれの体に仕込まれているからで。手を上げようとすれば逆に殴られ、足を出そうとすれば逆に踏まれた。兄弟で逃げ出す事も考えたが、監視装置がそこらじゅうに仕掛けられている為、直ぐに見つかり、拘束される。もどかしいが、どうしようもない現状。その歯痒さに、グルートとレーレは顔を見合わせ、苦い表情を浮かべる。


「私の事を呼んだかな?」
「……っ!」


けれどそんなやり取りは。二人の背後から掛かった声により、強制的に停止させられた。




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